中国の経済誌からちょっと前にうけた取材へのお返事を以下に掲載。問いの部分は僕が日本語修正。
(問)『AKB48の経済学』によると、AKB48がデフレの今、オタク層にもてている。しかしデフレではない海外市場では、AKB48のセールスポイントが海外市場で通用しませんという。どんなセールスポイントが通用しませんか。こういうことで海外進出苦しいですか。
(田中の答)AKB48は、JKT48とSHN48のふたつの海外姉妹グループを持っています。JKT48はかなり成功しています。現地の10代後半から20代前半の若い男性をファンの中心にしています。しかも面白いことに、彼らの7割が、JKT48を「AKB48の姉妹グループ」としてではなく、インドネシア・オリジナルのグループをして考えていることです。これは日本でアイドル市場が形成された1970年代初めと似た状況です。当時の日本のアイドルは、当時のイギリスやフランスのアイドルたちを真似たものですが、当時の日本の若者たち(10代から20代前半の男性)は、日本のアイドルは日本由来のモデル(model)だと考えていました。そして1970年代にアイドルのファンになつた男性たちは、応援するアイドルを変えながらも、その後いまに40代後半から50代前半になってもアイドルのファンであり続けています。これを私は「アイドルファンの年輪モデルModel」と呼んでいます。昔からアイドルだった人たちをずっとファンのまま保ちながら、新しい若い世代のアイドルファンを吸収していき、木の年輪のように成長していくのです。インドネシアではそのような年輪モデルが生まれようとしているかのようです。しかし他方で、中国のSHN48ではそのような若い男性ファンがあまりいません。それは中国のアイドルに対する趣味が、インドネシアと異なるからでしょう。インドネシアでは、未成熟な唄やダンスしかできない少女たちの「成長物語」を、ファンが一緒になって共有していくという、日本にもみられる傾向があります。アイドルの成長が、ファンの喜びです。しかし中国の若い男性ファンは、完成された質の高い歌やダンス(例:韓国の少女時代など)を好む傾向にあるようです。つまり、中国のファンたちは、日本やインドネシアのように、アイドルの「成長物語」を楽しむ傾向がないと。私は理解しています。そのためインドネシアでは成功しても、中国では難しいでしょう。また同じように、AKB48は、完成された質の高いアイドルを好む韓国や米国では人気がありません。米国でコンサートをしてもくるのは日本人が中心です。しかしロシア、フランス、イギリス、ドイツ、イタリアなどではAKBは人気があります。なぜなら先ほど書きましたは、もともと日本のアイドルは、ヨーロッパのアイドルを独自に進化させたものであり、ヨーロッパにも未成熟な少女たちの「成長物語」を楽しむ風土があるからでしょう。
(問)k-popは流行っています。Girls' GenerationのようなグループはAKB48よりダンースも歌もうまいですが、どうして、AKB48が人気になっていますか。多くの友達に、「完璧ではないアイドルがだんだん完璧になっていくことが一番好きです」と言われました。この言い方は本当ですか。でなければ、AKB48に人気がある理由はなににありますか。
<、「完璧ではないアイドルがだんだん完璧になっていくことが一番好きです」と言われました。この言い方は本当ですか。>
⇒(答)本当です。上に詳しく書きましたが、日本は、歌もダンスも未成熟(へた)な、女の子たちが、だんだんと成長していく「成長物語」を楽しむ風土があります。これは日本の伝統的な趣味で、古くは中世の文学の代表作である『源氏物語』にもみられる好みです。『源氏』では、主人公のおじさんが、小さい女の子を理想の女性に育てる喜びが記述されています。
(問)香港akb48公式ストアの責任者に聞いてみると、ファンに15〜18歳の女の子が70%強です。ファンの構成は日本と違いますけど、どうしてですか。
(答)中国の男性ファンは、成熟して完成したアイドル(例:少女時代などのK-POPや中国のアイドル)を好んでいるようです。中国で、女性のファンが圧倒的に多い理由は、AKB48の「カワイイ」kawaiiというファッションに魅かれてる人たちが多いということだと思います。日本では、アイドルの世界は、AKB48に代表される「秋葉原系」(アキバ系)とは異なる、原宿系のアイドルたちが存在します。きゃりーぱみゅぱみゅはその代表です。彼女のライフスタイルやファッションは、いわゆるKawaii文化の代表として、米国や韓国、ヨーロッパなどでも人気です。日本独自に完成されたものであり、そこには「成長物語」はありません。男の見守ってあげたい、育てたいという欲望を拒否する姿勢がきゃりーぱみゅぱみゅにはあります。きゃりーぱみゅぱみゅと似たアイドルとしては、perfumeも同じでしょう。おそらく中国のAKB48の女性ファンたちは、きゃりーぱみゅぱみゅ的なkawaiiものとして、AKB48のファッションや楽曲を理解しているのではないでしょうか。ただしAKB48本来の愉しみ方は、「成長物語」の共有でしょうから、現在の中国での消費スタイルはかなり例外的なもの、独特な消費の仕方だと思います。
中国語(台湾・香港版)『AKB48の経済学』の表紙は以下。