河合正弘「北朝鮮の経済体制移行と国際経済支援」


 『経済セミナー』2005年2月号掲載のもの



 北朝鮮経済の90年代の成長率低下は3つの構造的要因による。1)旧ソ連邦依存経済のための対外貿易・援助流入の急減、2)中央集権経済の非効率性(農業生産は96-97年に91年ピーク時の55%)、3)事実上の閉鎖経済のためにエネルギー・食料供給が厳しい制約。


 北朝鮮経済の改革現状…2002年7月1日の北朝鮮の「経済改善管理措置」(7.1措置)は消費財市場のみの市場的改革。経済特区でのインフラ整備の遅れの指摘など。特にインフラ整備が顕著に遅れ。


 ではどうすれば北朝鮮経済は発展できるか?

①本格的な市場経済化(外国資本導入して比較優位にある軽工業部門・地下資源開発の強化必要、国営企業改革、私有制の拡大、民営企業の発展、農業の市場化など)、②軍事部門(GDPの23%、人口比の9%が軍需・軍人人口)の民生部門への転換、③外資導入のための投資環境整備(インフラ整備、所有権保護、契約法整備などの「法の支配」の確立、雇用の柔軟化)。


 改革は漸進主義のスタンスを採用すべき(周辺諸国への影響緩和のため)


 上記の経済発展には国際経済支援が不可欠。そのためには現状の北朝鮮と国際社会(米国中心)との「囚人のジレンマ」状況の打破が必要。

 北朝鮮の戦略ーー協調(核兵器放棄)、非協調(核兵器開発)
 アメリカの戦略ーー協調(北朝鮮の体制保証)、非協調(北朝鮮の体制敵視)

いま両国(北朝鮮、アメリカの順)がともに協調などそのペイオフは(7,7)、アメリカ協調・北朝鮮非協調(10、0)、アメリカ非協調・北朝鮮協調(0,10)、アメリカ・北朝鮮ともに非協調(3、3)。このときアメリカ、北朝鮮ともに非協調が支配的戦略になる。


 この「囚人のジレンマ」状況の解消には、信頼関係を拘束する制度的取り決めが必要。国際的な公約や機関での交渉、監視の必要性。

 河合論文では2005年当時の状況を踏まえて、以下の条件をこの制度的取り決めの実効性確保のために提言している(一部表現その他省略するので各自原論説にあたられるように)。

北朝鮮が国際的に公約するのは(1 核兵器の非可逆的・検証可能なかたちでの放棄、2 拉致問題の解決、3日米韓との国交正常化 4 国際的経済機関への加盟申請)、アメリカなどの国際社会の公約は(1 体制存続 2 南北朝鮮の平和的統一 3 改革・開放支援)。


 六者協議当事諸国の役割として、例えば日本は戦後賠償を含めた大規模な二国間援助を行うとともに、他の国際機関などと連携して北朝鮮の再生・発展の処方箋の提供を積極的におこなうべきである。

 さて現在、この「囚人のジレンマ」状況は打破されるのでしょうか?