山崎豊子ネタ「しぶちん」を読む


 bewaadさんがエンタメ系ネタで山崎豊子原作の『華麗なる一族』エントリーを書かれたので、僕も便乗しましょう。(^^)。実はいま店頭ででている『週刊ポスト』山崎豊子特集*1でコメント求められたのですが、その時の御題が「しぶちん」という短編でした。これは新潮文庫の『しぶちん』に収録されている優れた小品だと思います。


 聡くて吝嗇な丁稚からのたたき上げ商人の半生が題材です。ともかくタンス預金(笑)が大好きでたまらないという、貨幣愛の権化みたいな男でして、そのケチケチぶりを丹念に記述した物語です。例えば奥さんが早死にしても、死後彼女が子どもとへそくりでうな丼を食べていたことがわかっただけで愛情もなにもかもw失せてしまうようなケチケチ男の話です。大阪の丁稚がどんな感じだったかも説得的に描写していまして興味深いものでもあります。舞台背景は第一次世界大戦前後の好況にわく頃でして、しかも戦後不況にもこの主人公は機敏に方向を転換してケチケチ路線を継続していく様はある種爽快感をもたらします。山崎豊子というと人生時間が無駄になったらどうしよう(笑)というくらい長い作品が多いのですが、この短編は30分もあれば十分に読めますが、その作品世界は濃密です。このケチケチ主人公が最後には彼なりのポリシーで公共的奉仕(なんかこの言葉はこの物語のケチケチぶりにそぐわない気もしますがw)にどかんと貢献することで、ケチケチで結局は終わりながらも一種のピューリタン的(なんじゃそりゃ?)カタルシスさえももたらします。タンス預金上等の「合理性」を描いているともいえますので経済学に興味ある方たちもいろいろ突っ込みや解釈を加えることができると思います。


しぶちん (新潮文庫)

しぶちん (新潮文庫)

*1:山崎豊子華麗なる一族』『白い巨塔』ほかに学ぶ「サラリーマン心得帳」