宮崎哲弥『仏教教理問答』

 宮崎さんの仏教問答三部作の一冊である。ほぼ二年ほど前に一回読んでいるが、かなりハードな内容に思えた。ただし編集が詳細な注をふるなどしたり、宮崎さんが途中途中でわかりやすい例示(小説や映画などの参照事例を用いるなど)をしているので、内容ほどには読みにくくはない。ただし仏教問答三部作は、本作を一番最後に読むことをやはりおススメする。一番最初に読むべきなのは、このブログでもわりと詳細に感想を書いた呉智英氏との対談『知的唯仏論』がいいだろう。小池龍之介氏との対談『さみしさサヨナラ会議』をその次によんで、いまのところのしめで本書を味読しよう。いずれにせよ、宮崎さんの仏教に関する言説は、宮崎さん自身の宗教論を知る以上に、仏教にかぎらず、われわれの生きている社会や経済が直面している根源を問う上で、またもっと身近では対カルト的な知と面するときの心構えとしても重要である。

宮崎哲弥 仏教教理問答(サンガ文庫)

宮崎哲弥 仏教教理問答(サンガ文庫)

『知的唯仏論』についてはここ参照のこと。http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20121229#p2

ディビッド・スモール『スティッチ』

 編集の方から頂戴する。どうもありがとうございます。この作品は掛け値なしの名作です。数年前に原書で読んでて感動したのでブログにも書いたことがあります。以下はそのときの文章のコピペ。

http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20100112#p3

Stitches(編み縫い)は、昨年アメリカで評判になったコミックである。どの家族にもその家族なりの狂気が秘められている。子どもに愛情を示せない母親、それぞれの孤独(の音)に没頭する兄と父親。孫に対して狂気じみた態度を示す祖母。そして幼い頃から成人までをその家族によって精神的な迫害を受け続ける主人公。全編には「家族」というものが、この少年の首にできた腫瘍(実は癌)のようなものである、というトラウマの陰影に満ちた物語だ。

 作者の実際の記憶と当時の感情をベースにしていることが、最後の登場人物たちの実際の写真とその後の人生の解説によって、さらに生々しいものになっている。題名の意味はこの物語を読むことで知ってほしい。そしてどの狂気をはらんだ家族がそうであるように、その狂気の物語にもそれなりの結末が用意さている。家族は同時にその存在に苦しんだものに対して、一種のカタルシスを与えることがあることもこの物語は教えてくれる。

 個人的に非常に参考になる物語だ。最近読んだマンガの中ではベスト数冊に入る。英語も簡明なので大して時間をかけずに読むことができるだろう。

スティッチ あるアーティストの傷の記憶

スティッチ あるアーティストの傷の記憶