『ニュースの考古学』(by猪瀬直樹)休載


 副知事の職務が軌道にのるまで休載とのことです。メールマガジンの準備段階から(それ以前のものも猪瀬さんにコピーにとっていただいてすべて)読んで、啓蒙的な文章の見本としてきただけに休載はしばしとはいえ残念です。


 ところで今回は「「東京都副知事」就任の前日ーー最新版都庁ガイドブック」」と題したものでして、その就任前日のドラマの最後を飾っているのは、僕らとの飲み会でした(^^)/。


 「しかし、考えてみれば日本の近代化を成功に導いたのは優秀な官僚たちの無私の精神であり、同時に破綻させたのは彼らの縦割りの無責任システムと、権力は腐敗するという法則である」。

 東アジア共同体への懐疑


 昨日のNHKの番組の関連で、東アジア共同体についての懐疑を以下に、安達誠司さんの『円の足枷』(東洋経済新報社)の議論を紹介する形で書いておきたい。僕(『経済政策を歴史に学ぶ』ソフトバンク新書)や野口旭さん(『グローバル経済を学ぶ』ちくま新書)でもほぼ同じ趣旨の関連する見解が書かれているので参考にしていただければ幸いです。


 東アジア共同体が求められる理由

 1 少子高齢化による日本経済の潜在成長の有効的フロンティアの消滅を、特に中国との統合で解消しようという財界・政治の要求(東アジア共同体によるレジーム転換論)

 2 対米・対ユーロ圏などに対抗する地域的な政治共同体の中での日本の政治的地位や発言力の向上を狙う*1



 安達本では、東アジア共同体によるレジーム転換についていくつかの理由から懐疑的である。


 1 日本と中国との侵略史、さらに長いスパンとしては文明史での対立(中華思想の克服)は短期間では困難


 2 米の経常収支赤字は、日本・中国・東アジア諸国などの経常収支黒字でファイナンス。経常収支のあり方は貯蓄・投資バランスで決定。東アジア共同体は、日中東アジア諸国の国際分業体制を変化させることでアジア圏の貯蓄・投資バランスを変化させ(投資超過・貯蓄不足)ることで、米の経常収支赤字の削減を契機にして米の経済の中長期的な停滞を招く可能性があり、米はこの理由から東アジア共同体の構築を問題視する可能性。


 3 アジア共通通貨構想は、「強い円」(購買力平価を“天井”とする円安阻止=円高への支持)であり、「円の足枷」として日本を長期停滞に陥れている主因。
 

 安達本では石橋湛山の小国主義の採用と大国主義への批判を現代的な教訓として読み解いている。大日本主義を放棄する理由は、大陸などへの植民地政策は、人口増加・国内市場のデッドロックなどを回避する政策としては、植民地経営の経済的コストが膨大。むしろ植民地を放棄して日本はアジアの一小国として、自由貿易体制(いまでいうとFTAの推進)の恩恵を受けたほうがはるかにメリットあり。


 「これはまさに今後の日本経済に当てはまることではないだろうか。まもなく到来する少子高齢化社会では、日本経済は付加価値の高い産業に特化するとともに、労働集約的な産業はほかの新興経済圏の諸国へ生産拠点を移転して、真にグローバル経済の一員として生きていくことがますます重要」(230)。ここに湛山の小国主義の現代的評価が求められるのである。


 東アジア諸国の中で平和と友好を築くことが、一部ではそのまま東アジア共同体などの経済・政治的統合とほぼイコールで語られている、あるいは求められているとしたら、それは単純に議論の悪質なすり替えでしょう。かってこの種のすり替えは大東亜共栄圏構想にありましたが。

*1:何のために発言力を有したいのかまったく不明だが