首相と桜を見る会の経済学

 「首相と桜を見る会」は、いまや単なる安倍政権批判ありきの政治ゲームと化している。ゲームの主要プレイヤーは、一部のメディアや立憲民主党日本共産党などの野党の大半であり、さらに「反権力」「反安倍」を信奉する識者が相乗りしている。この方々の発想は簡単で、箸が転んでも安倍政権批判とでもいうべきスタンスであり、論理の跳躍、ゴールポスト(論点)の移動などはお手のものである。新型コロナウィルスが日本でも流行の兆しがあっても、国会ではこの桜問題が論戦の中心である。与野党とも何をしているのか、と多くの国民は疑問とともに見ているに違いない。
だが、このような当然の疑問も、反安倍勢力の前では通じない。例えば、新聞記者たちは、このような疑問の声を「いつまでモリカケ論」と呼んで批判している(毎日新聞桜を見る会」取材班『汚れた桜』毎日新聞社)。彼らの論法では、「桜を見る会」が安倍首相の私物化の疑惑があるならば、その会が税金で運営されているかぎり、疑惑があるかぎり追求するのが当然となる。一見すると正しいようだが、「桜を見る会」への「疑惑」は果たして国会の質疑時間を大きく占めるほどの重大なものなのかは別問題だ。
以下は筆者が気付いた「首相と桜を見る会」の主要な“疑惑”の整理である。
1 「首相と桜を見る会」には、後援会、支援者、また社会貢献がわからない人が多くなっていて、「私的な催し」と批判されるほど税金の使途としておかしな点がある。
 後援会の人間が多くよばれた点は反省すべき点がある。ただし安倍政権だけが後援会やまた「議員枠」などで招待客を募っていたわけではない。民主党政権時を含んで歴代の政権が同じことをしていた。民主党の菅政権時代の桜を見る会では、当時の滝実総務委員長名で、民主党所属の国会議員にメールが送られた。その内容は「「桜を見る会」へのご招待名簿の提出について」と題されていて、後援者や支援団体の幹部などの招待を促すものだった、という報道がある。現在の野党や先の毎日新聞のような一部メディアが「桜の会」の安倍首相の「私物化」を問題にするのはかなり異なる印象だ。つまり後援会など支持者たちを招くことは、民主党政権時代もおそらくそれ以前からの慣例なのだ。そのときには問題にならず、今回だけ異様に批判されている。しかも招待の基準や規模について政府が見直しを表明しても「私物化」疑惑が終わることがない。この延長で、会合に参加した人たちの名簿提出を、野党などは要求しているようだが、政治的な思惑が優先してしまい、個人情報の悪用の方がむしろ心配である。
2 「首相と桜を見る会」の安倍事務所主催の前夜祭(夕食会)はホテルニューオータニが設定した一人5000円の費用は安すぎる。これは有権者安倍氏側が利益供与した公職選挙法違反の疑いがある。夕食会の領収書や明細書がないのはおかしい。
 さらに「桜を見る会」の安倍事務所主催の前夜祭(夕食会)が問題になっている。この件については、5000円の価格設定も特に不思議ではない。実際に同様の価格で別の政治家が会合を開いていることもマスコミでは報道されている。ホテル側が参加者に発行した領収書は存在すること、マスコミ経由でその領収書の画像もわれわれは確認することができるがおかしな点はない。ホテル側が明細書を出さなかった点もホテル側との信頼関係などで出さないことがある。政治資金収支報告書にこの夕食会の収支記載がないことも、単に安倍事務所は「仲介者」(仲介手数料もない)でしかなく、ホテル側と参加者との契約関係にしかすぎない。そのため金銭のやり取りがなければ政治資金収支報告書に掲載する必要性もない。そもそも価格設定が不適切だという話から、この明細書や領収書問題がでてきたのだろう。先に書いたように、価格設定自体に不自然なものは特にない。個人的にはホテル側もとんだとばっちりを受けているとしか思えない。
3 「首相と桜を見る会」と行政処分や特定商取引違反容疑で家宅捜査をうけたジャパンライフ問題の関連。
主に高齢者を対象にした現物まがい商法で消費者に大きな損失を与えたジャパンライフの元会長を、2015年の桜を見る会に招いたことが話題になった。ただし報道によれば、行政処分をうけたのは、2016年、さらに家宅捜査をうけたのは2019年4月である。未来を正確に予測して、いちいち招待客を選別しなければいけないとなると、なかなか政府も大変である。なお14年に行政指導をうけたことが問題視されているが、もし行政指導された企業を会合に招待しないのであれば、テレビ局でも行政指導をうけている局が複数あるので、それらのマスコミの取材も制限することになる。言い換えると、行政指導は事業者の自主的な改善を促す狙いがある。何らかの違法性があれば、行政側は先ず行政指導を行い、改善がみられない場合に行政処分を行う。ただし悪質な場合はいきなり行政処分もありえる。
またジャパンライフの広告に、「首相と桜を見る会」の招待状が利用されたり、加藤勝信大臣(当時)とジャパンライフ元会長が食事したり、毎月ホテルでジャーナリストや政治家を参加者にして懇談会をしていたことが報道されている。ただしマスコミの一部は、これを首相の責任問題にしたいらしいが、さすがにそれは筋違いであろう。宣伝に悪用したジャパンライフがまず批判されるべきだ。また懇親会によばれたメンバーには、後藤健次(テレビ朝日報道ステーション」コメンテーター(当時))、島田敏男(NHK解説委員長(当時))、岸井成格(故人、毎日新聞特別編集委員(当時))などジャーナリストが並んでいるし、またジャパンライフ顧問には朝日新聞政治部長の橘優氏が就いていた。同社が行政処分された後もジャパンライフの広告をマスコミが掲載してもいた。
4 内閣府が招待客の名簿などシュレッダーで処理したタイミングなどが怪しい。隠蔽だ問題。
 この野党の大半が参加した内閣府でのシュレッダー見学報道にはあきれたの一言だった。野党側は昨年5月9日に国会で名簿の存在について質問した直後にこの資料がシュレッダーにかけられたことを「疑惑」として騒いでいた。しかし、実際には、その国会質問以前の昨年4月22日に処分の予約が入っていた。国会での質疑とはまったく関係なく、単に仕事の都合である。
いろいろ列挙したが、一言いえるのは、無責任な「疑惑」自体をシュレッダーにかけるべきである。新型コロナウィルスの対策、経済、安全保障など重要問題での与野党の本格的な攻防をみてみたい、そういつも願っている。