明けましておめでとうございます。今年も皆さんのご多幸、ご健勝をお祈りしております。
毎年恒例の経済書ベスト20も、今回で7回目(8年目)を迎えました。ネット(twitter、Facebook、メールなど)を経由して毎年100名ほどの方々から投票をしていただいています。参加いただいたこと、また拡散頂戴したこと感謝申し上げます。今年も2019年1月から19年12月までに出版された経済書の中から基本三冊を、ハッシュタグをつけて選らんでいただき、投票結果は毎年このブログに掲載してきました。
おひとりの投票ポイントは平均6ポイントになります。1位に3点、2位に2点、3位に1点を与えます。順位が不明のものなどは私の方で適宜配分しています(例:順位不明で二作品投票などは、二著作に2点ずつの配分、1作品だけ投票の場合は3点を付与など。また順位不明でも明らかに順位づけをしている旨が読み取れるときはそれを考慮。四点以上の場合は、四位以下には0.5点を付与。一人で複数枠順位を投票の場合もその貢献を尊重して換算など)。
『エコノミスト』(毎日新聞社)やダイヤモンド社のような雑誌側の選んだ専門家たちの選択よりも、ネットを通じて多数の方に自由に投票していただいた結果は、価値のあるものと思っています。
昨年までの一位をご紹介します。
2012年第一位 ポール・クルーグマン
『さっさと不況を終わらせろ』(早川書房)
2013年第一位 田中秀臣編著
『日本経済は復活するか』(藤原書店)
2014年 実施せず
2015年 原田泰
『ベーシックインカム』(中公新書)
2016年 井上智洋
『ヘリコプターマネー』(日本経済新聞社)
2017年 飯田泰之
『マクロ経済学の核心』(光文社新書)
2018年 田中秀臣
『増税亡者を名指しで糺す!』(悟空出版)
今年は例年ですと、第一位になる票数を獲得した著作が三作ほどありましたが、最終的に第一位を得た著作が断トツの票数を集めて栄冠を手にしました。また第四位と第六位の著者は足し合わせると第二位に躍進するなど、これからは著者別の集計も考慮する必要があるかもしれません。無冠の帝王といわれている高橋洋一さんは今回はベスト10に惜しくも届きませんでしたが、昨年の著作の数が10数冊にのぼり、それらの票を総合すると楽にベスト10に入ってもいます。また以下をご覧くだされば明瞭ですが、昨年はPHP研究所の経済書が特に支持を集めたことでも記憶されると思います。
では、今年の第一位をご紹介します!
第一位 柿埜真吾
『ミルトン・フリードマンの日本経済論』(PHP新書)
著者近影は柿埜さんの希望により割愛させていただきました。
著者から投票してくださった皆様へ
無名の著者の本を手に取って応援してくださった皆様、心より御礼申し上げます。多くの方に高く評価していただけたことは本当に望外の喜びです。このような評価をいただけたのは、田中先生をはじめ、たくさんの先生方が応援してくださったからです。本当にありがとうございました。これを励みとして、今後一層頑張っていきたいと思います。
本書を執筆したのは、ミルトン・フリードマンの知られざる業績を少しでも多くの人に知ってほしい、日本経済の課題、特にデフレ脱却に対して少しでも多くの方に関心を持ってほしいという思いからでした。
フリードマンほど誤解され、不当な評価を受けてきた思想家も珍しいでしょう。特に日本では、フリードマンに市場原理主義者、弱者切り捨てといったレッテルを張り、彼の人格を中傷する著作は巷に溢れていますが、フリードマンが実際に何を言っていたのかは殆ど知られていないのが現状です(数少ない例外が、「フランク・ナイトは本当にミルトン・フリードマンを破門したのか?」http://tanakahidetomi.hatenablog.com/entries/2006/11/22#p1をはじめとするフリードマンに対する根拠なき中傷に正面から反論した田中先生の論説です)。
しかし、フリードマンのアイデアは読まずに捨ててしまうにはもったいないものばかりです。今日の日本が直面するデフレ脱却、貧困問題や教育改革といった課題についてフリードマンに学ぶべきところは少なくありません。彼は日本経済に強い関心を寄せ、たくさんの論説を書いていますが、ニクソンショック、バブル崩壊、そしてデフレ不況の到来といった出来事を見事に予測し、その都度、的確な処方箋を示しています。本書でも指摘したように日本経済がデフレから脱却するには量的緩和の下での減税が不可欠です。本書を手に取った方がフリードマンの著作を紐解き、日本経済への関心を持っていただければこれに勝る喜びはありません。
第2位 安達誠司
『消費税10%後の日本経済』(すばる舎)
著者から投票して下さった皆様へ
拙著「消費税10%後の日本経済」に投票いただきありがとうございます。私にとっては財政政策について書いた初めての本になります。この本の最大の特徴は日本の財政について書いたものながら日本の財政学者の本や論文は一切引用しなかった点です。また、本を執筆する際は新しい論点を提示するように努めていますが、今回は経済政策の「レジーム」を金融政策と財政政策の2つの次元で考え、全部で4つの「レジーム(2×2)」に分け、政策レジームが4つのレジーム間をどのように推移していったか、そして、それらのレジームによって経済がどのような影響を受けるかについて言及した点が他書にはない論点ではないかと考えています。この「4つのレジーム」についての考え方は他にも応用可能だと考えているので今後も研鑽・応用を進めていきたいと思っています。
今年は2017年に出した「ザ・トランポノミクス」の続編と、できれば「デフレの歴史分析」の最新バージョンを出したいと考えています。もし出版の際にはお読みいただくと幸いです。
第3位 飯田泰之
『日本史に学ぶマネーの論理』(PHP研究所)
著者から投票して下さった皆様へ
今回も拙著『日本史に学ぶマネーの論理』を多くの方に言及いただきましたこと、大変光栄です。同書で取り扱うのは古代・中世・近世と、いずれも今日とは大きく異なる実体経済や法・支配体系における貨幣の働きについてです。国際的な金融取引の拡大や仮想通貨の誕生といった貨幣秩序そのものの転換期においては、現行制度とはまるで異なる秩序下での貨幣の振る舞いから学ぶことは少なくないでしょう。このようなお堅い社会的意義を抜きにしても、我が国の貨幣制度ってどこかガラパゴスなのに不思議な先進性のあるなかなか面白いものですよ。経済書というと、直接的な政策提言や論争点へのコミットなどが重視されがちですが、時にこれらの問題を離れ、俯瞰的にこれからのマネーを考える上で一助となる部分を発見していただけますれば光栄です。
第4位 上念司
『経済で読み解く日本史』全五巻(飛鳥新社)
著者から投票して下さった皆様へ
作家活動10年目にして、代表作と言える作品を発表することができました。そして、その代表作が今まで出した本の中で一番売れるという幸運!書くのはとても大変でしたが、頑張ってよかったと思います。
本作を通じて皆さんにお伝えしたかったのは「経済的に困窮した人々はヤケを起こして過激思想に走る」という歴史法則です。しかも、この法則は時代や地域を問わない普遍的なものなのです。
昨年10月の消費税増税によって日本経済の先行きに不透明感が増しております。再び日本がデフレに戻ることになれば、この法則は発動してしまうかもしれません。果たして安倍政権にアベノミクスのバージョンアップが可能なのか?いい意味での確率変動があればいいのですが、、、
ちなみに、今年の4月に本シリーズ「平成編」を出版する予定です。そちらもぜひよろしくお願いいたします。
第4位 岩田規久男
『なぜデフレを放置してはいけないか』(PHP新書)
コメントご依頼中。
第6位 上念司
『もう銀行はいらない』(ダイヤモンド社)
著者から投票して下さった皆様へ
私が銀行員を辞めて四半世紀が経ちました。何も考えずに新卒で銀行に就職してしまったことは不勉強の極みでした。あの頃、『もう銀行はいらない』に出会っていたら私の人生はぜんぜん違ったものになっていたでしょう。もちろんそんなタイムパラドックスはあり得ないのですが、、、
この本の最終章で書いた予言は着々と成就しつつあります。収益の悪化に苦しむドイツ銀行がAIを導入するそうです。銀行業務に人はいらない、銀行員の99%はリストラされる運命なのです。いずれ日本の銀行でもこの流れが顕著になっていくでしょう。
それにもかかわらず、未だに大学生の就職ランキング上位に銀行が入っていることは驚きです。就活生は最低でもその業界の上位3社の財務諸表を過去5年分ぐらい遡って見ておいた方がいいですよ。あなたがどんなに優秀でも、業界が終わってたらどーにもならないし、無能経営者が会社のトップにいたら逆転不可能ですから。
今の大学2、3年生にこそ読んでほしい本です。金融業界志望の友達がいたらぜひ薦めてください!!
第7位 吉松崇
『労働者の味方をやめた世界の左派政党』(PHP新書)
著者から投票して下さった皆様へ
多くの方々に『労働者の味方をやめた世界の左派政党』への支持を頂き、心より感謝申し上げます。
「あとがき」に書きましたとおり、私はピケティが2018年に発表した論文(”Brahmin Left vs Merchant Right”)を読んで衝撃を受け、これを何とか紹介したいと考えました。西欧先進国の今日の政治状況が、これで実に上手く説明できると思ったからです。
一言でいえば「左派政党の支持者が労働者から知的エリートに変質して、その掲げる政策が労働者の利害を離れたアイデンティティ・ポリティックスに変質してしまった」ということです。しかし、それでも欧米の左派政党は過去の敗北を反省して、政策を見直しているように見受けられます。
イギリスを例にとると、2017年の総選挙ではそれまでの政策を転換して「反緊縮」を訴えた労働党が躍進しました。そして、これに危機感を覚えた保守党は、2018年の党大会でキャメロン政権以来の緊縮政策と決別します。昨年12月の総選挙を「ブレグジット」を脇に置いて眺めると、減税と医療保健サービスの充実を訴えた保守党が、アイデンティティ・ポリティックスと基幹産業国有化の労働党に圧勝したのだと見ることができます。この選挙結果を見ても、ピケティ論文の文脈による解釈が有効なのです。
それにしても、与党と野党が政策で争っているイギリスのような国が羨ましいですね。日本の野党は「政策」ではなく「政局」にしか興味を示さないので、政権与党は野党に何の脅威も感じていないでしょう。だから日本の政治が弛緩するのです。我々有権者がこれに「NO」を突きつける他はありません。
第7位 井上純一
『キミのお金はどこに消えるのか 令和サバイバル編』(KADOKAWA)
著者から投票して下さった皆様へ
昨年に引き続き、2冊目もランクインさせていただきまして、感謝の極みです。
実は1冊目を描いてるときに懸念がありまして、妻の月サンが経済学を習熟してしまい、読者を置いてけぼりにしてしまったらどうしようというものでした。
が、未だに月サンは前やったはずの経済の問題に純粋に憤ったり、感心したりしてくれます。おかげで重要な問題は何回も解説することになり、1冊目より2冊目というふうにどんどん分かりやすくなっております(笑)この本が分かりやすいのはすべて妻のおかげなのです。月サンありがとう!
第9位 ハンス・ロスリング
『FACTFULNESS』(日経BP)
FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
- 作者:ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド
- 出版社/メーカー: 日経BP
- 発売日: 2019/01/11
- メディア: 単行本
第10位 ヤニス・バルファキス
『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(ダイヤモンド社)
特別顕彰
上にも書きましたが、高橋洋一さんの著作への投票数をすべてあつめると楽にベスト10入ります。以下の11位から20位まででも3著作ランクイン。多作のために票が分散してしまったようです。無冠の帝王らしい高橋さんの独自性と思われます。ここでは高橋さんを顕彰して、一昨年12月から昨年末まででた全著作を以下に一気に掲示します。
11位 山口慎太郎
『「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実』
12位 高橋洋一
『「消費増税」は嘘ばかり』
13位 ヤニス バルファキス
『黒い匣』
黒い匣 (はこ) 密室の権力者たちが狂わせる世界の運命――元財相バルファキスが語る「ギリシャの春」鎮圧の深層
- 作者:ヤニス バルファキス
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2019/04/19
- メディア: 単行本
14位 坂井豊貴『仮想通貨vs国家』
16位 佐々木実『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界 』
17位 猪俣哲史
『グローバル・バリューチェーン 』
17位 高橋洋一・田村秀男
17位 猫組長(菅原潮)&西原理恵子
『猫組長と西原理恵子のネコノミクス宣言 完全版』
20位 高橋洋一
『政治家も官僚も国民に伝えようとしない増税の真実 』
ランクインした皆様。おめでとうございます!
今年はどんな経済書が現れるでしょうか!