安達誠司「経済から見る太平洋戦争への道」in『日本陸軍と太平洋戦争』(洋泉社MOOK)

 日清日露戦争から太平洋戦争に至る経済的・政治的俯瞰がとても優れていて一読をおススメします。特に太平洋戦争に至った理由として、特に安達さんが注目しているのは満州へのこだわりです。この満州へのこだわりの背景には、人口増加維持不可能論とでもいうべき当時の間違った経済認識、それを前提にした対外植民地活動への歪んだ期待(満州での資源開発や新フロンティアへの過度な期待)、そして関東軍を中心にした戦争を起こすことで権益を維持したい勢力をおしとどめることができなかったこと、などがあげられています。

 それと戦前の日本の経済成長が抑制された原因として、農村から都市への労働者の移動が、軍に人材を吸収されたことによって阻害されたことにあるかもしれない、という指摘は重要だと思いました。簡単にいうと前者は、最近の中国の経済発展にも典型的なように「余剰労働力」を生産的な部門に吸収して高い成長につながったのに対して、後者では軍という生産性が低い部門に吸収したことで(たとえ退役した後でもその期間中人的資本の蓄積が阻害される)低い成長率につながる可能性があったのでは、という議論ですね。この点は興味深いです。

 この冊子は他の記事も読み物として興味深いので手元に置いておくのもいいかもしれません。