荻上チキ&SYNODOS編『日本の難題をかたづけよう 経済、政治、教育、社会保障、エネルギー』

 安田洋祐、菅原琢井出草平大野更紗、古屋将太の各氏がメインパートをうけもち、付録に梅本優香里氏が寄稿している構成になっている。まず新鮮な題材が並んでいるのがいい。

 特に冒頭の安田さんと菅原さんの論説は新しい知見をわかりやすく一般の読者に伝えていることで秀でているように思える。安田さんの論説のテーマは、マーケットデザイン。従来の経済学が市場をすでに存在するものと前提してその需給分析に終始していたのに対して、メカニズムデザイン(ある場に集うメンバーのメッセージを集約してそれに応じた結果を定めていくプロセスを構築すること)として市場の創生をみていく立場を明らかにしたものです。さまざまな実践例として、周波数オークション、腎臓交換デザイン、学校選択デザインなどが具体例としてあげられています。

 また超簡単なゲーム理論の解説(そのキーとしてのナッシュ均衡の説明)も読者には一発でわかるすぐれたものでしょう。またメカニズムデザインの中核として、マスキン定理を「ソロモン王の知恵」を題材に扱っているところはこの論説の優れたところではないでしょうか。ある社会目的が定まっていてそれを実現することができるのか否かをマスキンの定理でくだけて説明していく、これだけ初歩の理解におとした世界最初の説明かもしれません。

 菅原氏の論説はたぶん記憶では初めて読むのですが、統計データを使って、「一票の格差」、自民党の支持基盤などを詳細に点検していて便利です。どこかで話の題材に使いたいですね。

 井出氏、古屋氏、大野さんの論説はすっと読めてしまい、もうひとつ何か熱量があると面白いと思いました。大野さんにはぜひ『現代思想』での川口さんとの対談でみせた「あいまいな意思決定主体」とでもいうべき論点を深めていただけないかな、と希望してます。梅本氏の付録は付録にしておくのがもったいないほど、発展途上国における職業訓練の事例を深く論じていて参考になるものでした。

 しかしどんどん新しい論者がでてきて面白いかぎりです。

日本の難題をかたづけよう 経済、政治、教育、社会保障、エネルギー (光文社新書)

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