ということで、その昔、『週刊東洋経済』に書いた綿矢りさ氏の関連本についての書評をコピペ。
何かに熱中している真っ最中に、同世代の高校生の女子から背中を蹴られたことありますか? ぼくはあります。
さて今年度屈指のヒット作第130回芥川賞受賞作『蹴りたい背中』を書いた綿矢りさの本邦初の研究書である。ところで100万部を軽く超えている綿矢りさの著作の評判は不思議なほど周りから聞くことがない。この間たまたま手にしたおじさん系ビジネス情報誌では、有名企業トップの推薦書が並んでいて、『蹴りたい背中』が常連である司馬遼太郎や城山三郎と並んで挙げられているのを見て、ふ〜んと妙に感心した程度である。
しかし評者の半径100キロ以内にいる知的で(?)ジェントルなおじさんたちの綿矢りさへの関心度はきわめて高い。しかも彼女の著作なんか読んだこともないのにである。おそらく綿矢りさの報道されているイメージにおじさんたちが弱いだけなのかもしれない。本書でも早稲田大学の小説家志望の女の子が次のような感想をもらしているが、これはおじさんたちの共通イメージでもあるだろう。
「なんか典型的な文学少女って感じするよね。理想像っていうか(略)キャバ嬢みたいなのってありきたりすぎるんだよね。誰でもやろうと思えばできるんじゃないかなって思う。でも綿矢りさって、作ろうと思って作れるもんじゃないじゃん。あの微妙な魅力は」。
本書ではこの「微妙な魅力」をもたなかった(もたなくてもよかった)同世代の若い人たちのジェラシーや憧憬、あるいは率直な批判を吐露したインタビュー、作品の詳細な分析が二編収録されている。綿矢りさ関連の詳細な用語集がとても便利でもある。背中を蹴られたことがある人もない人も、または彼女の著作を読んでいなくとも綿矢ワールドに浸ることができるすぐれものである。
- 作者: 小谷野敦,渡部直己,吉本謙次
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2004/08/26
- メディア: 単行本
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- 作者: 綿矢りさ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/10/28
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