中国経済の専門家というだけではなく、現代日本の「思想」にとって梶ピエール氏はものすごく貴重で重要な存在であることを皆さんはどれくらいわかっておられるのか。俺も十分にはまだわかってはいない。
と書かれていますが、僕も同じ感想をもっています。しかし本書を読めば「十分にわかる」領域に誰もがなるのではないでしょうか?
村上春樹の有名な講演のテーマ「壁と卵」の比喩の二元論的な見方ーシステムとその前の個人の対立ーを、梶谷さんは比較制度分析の貢献を用いて、システム(制度)を「相互に関係するルール・予想・規範・組織のシステム」ととらえ、壁と卵の相互依存的な関係から、現代の中国の問題を見ようとしています。
また都市と農村という二部門経済的な視点も採用されていて「搾取労働」や「臨時工」などの問題に応用されています。貨幣的な要因と実物的な要因との関連も、ほかの中国の時論とは比較にならないぐらい丁寧に言及していて、経済学の基本的な理解のある人にはわかりやすい俯瞰になっているでしょう。後半は政治、民族問題、文化などが論じられていて、多様な話題を縦横に採用されています。
書店によくある中国問題の本よりも数段深い認識が可能になる一冊です。おすすめ。

「壁と卵」の現代中国論: リスク社会化する超大国とどう向き合うか
- 作者: 梶谷懐
- 出版社/メーカー: 人文書院
- 発売日: 2011/10/14
- メディア: 単行本
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