上念司さんが「これはいい」ということで頂戴したのだが、いまネットでも話題の菅原氏の経済学入門書である。本書の特徴はふんだんに新聞の論説や社説、それに大学の経済関係の入試問題などを収録し、それを利用しながらマクロ経済(国民所得勘定、日本国のバランスシート、IS-LM分析など)をとりあげ、またミクロ経済学でも、比較優位と消費者選択の話題をつなげる工夫をしているところが面白い。
このように新聞記事などを利用して経済学の体系的な知識を学生に取得させようという試みとしては、先駆的には『ゼミナール日本経済入門』があった。しかしこの菅原氏の本の特徴は、それよりも政策論争を意識した構成になっていることにあるだろう。たとえば日本の財政赤字の真実を考える点でも十分に参考になるだろう。
さらに政策論争を利用しながらマクロ経済学の知識を取得できる書としては従来でも、飯田泰之『経済学的思考の技術』、拙著『経済論戦の読み方』などが存在したが、本書はそれらよりもより体系的であり、学生への系統だった教育を考える上でもよい手本を示しているといえるだろう。
この点で、本書は類書を求めるならば、Peter KennedyのMacroeconomic Essentials(最近第三版が出たばかりである)に近い役割を果たすといえるだろう。もちろん菅原氏の方が高校生向けなので必要最小限の知識の提供と日本での事例を中心にしている点で、ケネディのより包括的な書籍と差別化できるだろう。菅原氏の本を読んだ後に、ケネディの本やほかの政策問題を扱った本に移るというのも勉強のひとつのコースとして考えられるだろう。
ブログを拝見すると入院治療中とのことである。シノドスジャーナルでの健筆の展開も楽しみなところ。12月の復帰を楽しみにしたい。
菅原晃氏のブログ http://abc60w.blog16.fc2.com/
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