西村佳哲『自分をいかにして生きる』

 いま経済学の古典を再読しようを合言葉に、ジェボンズの『経済学の理論』をわざわざ小泉信三訳で読破したところです。ジェボンズにとって働くことというのは一般的には苦痛でしかない。例外的に仕事自体が楽しくてやっているということも認めているけど基本的には労苦そのものである。この西村氏の本では、多くの学生が仕事をやりたくないことを我慢してやること、ととらえていると書いている。多くの学生はジェボンズ的な労働観をもっていることになるだろう。

 本書で西村氏は大学の講義や、さまざまな働き方の「思想」とでもいうべきものをもっている人たちと対話することを通じて、働くことの意味を再考している。本書の冒頭には、結果や成果としてある「仕事」を波間に浮かぶ小島にたとえている。この小島の例解はなかなか趣味のいいイラストで示されている。他方でこの小島がその海面下では巨大な階層構造をもった基礎に支えられているということを別なイラストとも対比している。人はまま他人の波間に浮かぶ「仕事」しか評価しないことに注意を促しているといえようか。

 問題はそういう膨大な隠れた階層的基礎をつくることができる「仕事」なのかどうかではないだろうか? 多くの「仕事」はそれが不可能ではないだろうか? そういう「隠れた努力」を構築することが最初から不可能なような「仕事」についたときに、人はどうその「仕事」に向きあうべきなのだろうか。自分の仕事観も含めてこの本は、平易でわかりやすい文体とあわせて、改めて働くことの意味を教えてくれるだろう。僕のようなすれた大人ではなく学生が読むべきかもしれないが。

 ちなみに上の労働=苦痛観はジェボンズの労働観の半面でしかない。それについてはジェボンズをこのブログで言及するときに解説したい。

 献本いただいた本です。どうもありがとうございました。

自分をいかして生きる

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