小さな政府と社会保障拡大を求める欺瞞

 すなふきんさんの記事:小さな政府と社会保障の両立を求める変な国民(http://d.hatena.ne.jp/sunafukin99/20090908/1252362873)を読んだ。

また、「小さな政府」や「健全財政」という理念を不磨の大典のごとく信奉する改革原理主義者たちは、できれば医療保険制度や社会保障制度についても縮小撤廃の方向へ持っていきたいはずだが、日本国民の大部分はそうは思っていないだろうことは世論調査の結果からも推測できることだ。にもかかわらず表面的には「小さな政府」「健全財政」を支持する国民世論が強いようにも見える。これは本来矛盾することなのだがどういうことだろう。アメリカでは保守派による医療保険拡大への「草の根的」抵抗が根強いことを日本国民の多くは理解できないかもしれないが、むしろアメリカ保守派の姿勢の方が首尾一貫しているともいえる。「小さな政府」を求めつつ「社会保障充実」も訴える日本型支離滅裂の背景にはいったい何があるのか興味がある。

 僕もこの国民の一部がもつ自己欺瞞的な態度を疑問に思ってきた。その集団心理的なルーツについての考察も必要かもしれない。ところでこれと同様の指摘を駒村康平氏が『大貧困社会』の中でご自身の調査結果をもとにやはり批判的な観点から言及していた。

「では、国民は「小さな政府ですべて自己責任、格差・貧困の拡大」ち「大きな政府で安心が持てる、格差・貧困の解消」のどちらを支持しているのであろうか。表6−2は2006年に社会保障制度に関する負担と期待に関する調査を行った結果である。これによると、「大きな政府」で「安心、格差・貧困解消」を望む意見を持つ国民は20%程度存在する。一方「格差や貧困は放置してもいいから」、「小さな政府」を望む意見を持つ国民も10%ほど存在する。このふたつの意見を持つ国民は、負担と給付の組み合わせについては首尾一貫した考えを持っていると理解できる。このほか、「負担も給付もそこそこ」という中間的な組み合わせを希望する人もいる。さらぶ負担と給付について矛盾する意見、つまり「格差・貧困は縮小してほしい」が「小さな政府」でそれを成し遂げてほしい、という無い物ねだりをする国民が20%弱存在することも忘れてはいけない。実はこの人たちが選挙のかく乱要因になっているのだ。というのも、この人たちはきちんと現実を見ずに、その時々のおいしい政策を提言する政治家ばかりに投票する傾向があるからだ。つまり選挙のたびに意見が変わるかれらのために、政策の一貫性が失われることになっているといえる」(187-8ページ)。

 さて今回の民主党の大勝利(実はその前の小泉郵政民営化選挙なども同じ)でもこのすなふきんさんや駒村氏の指摘が実によく反映されているように思える。民主党の経済政策はいまだ発射前なので予断でしかないが、少なくともマニフェストでコミットした内容からは、「再分配と小さな政府」という特徴が観察される。

 「再分配」の典型が、子育て支援や農業者支援だろう。後者の「小さな政府」は前者の「再分配」を可能にするための「財源」調達をもかねた予算の再編成とかムダの廃止などと表現されているものである。この後者には「天下り全面禁止」がトッピングしたりしている。

 このように民主党の政策の大きな特徴ー「再分配と小さな政府」というのは、その基本構想では駒村氏らが批判している「小さな政府と社会保障拡大」そのものを目ざしているといってもいいのかもしれない。もっとも民主党の「再分配」は「社会保障拡大」というよりも、煽りとしての「社会的弱者」への「再分配」というものだと考えた方がいい(昨日のエントリー参照)。

 では駒村氏の指摘したように欺瞞的な層が今度の選挙結果を大きく左右したのか。20%の層が民主党に流れたといえるのかもしれない。ただの雑談レベルで話をすすめてみよう。

 44回と今回の45回の衆議院選挙は投票率がほぼ同じ水準なので比較するのに便利である。44回のいわゆる郵政選挙のときには、自民が大勝したわけだが、その投票総数にしてる割合は約47%であり惨敗した民主党系は約36%であった。対して今回は大勝した民主党系が約47%であり、惨敗した自民が38%である。選挙動向のプロでもないのであくまで素人観察でしかないが、数字の変遷だけみると、駒村仮説の20%の欺瞞層の動向というものが、選挙の趨勢を決めた可能性もありそうだ(可能性だけで絶対にそうだとは言い切れない)。実際には自・民との比較ではたかだか10%前後の投票獲得率の推移が、まったく国会の勢力を劇的に逆転してしまっていることが驚きでもある。もし駒村仮説の20%仮説がそのまま成立してしまったら、あるいは自民はただの少数政党になったかもしれない。

 もっとも便宜的に自民を「小さな政府・格差縮小」をとらないとみなしたが、本当はあいまいなわけであり、他方で民主だってイメージ通りに実際の政策をやるともかぎらない。そもそもマクロ金融政策を適切に運用すれば、現状での「格差拡大」は失業率の高まりもあるのでそれを低めることでかなり解消されるだろう。その意味では小さな政府でマクロ金融政策で格差縮小もありえる解ではある。

 まあ、雑談なのでここらへんにしておこう。

大貧困社会 (角川SSC新書)

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