高橋洋一・長谷川幸洋『百年に一度の危機から日本経済を救う会議』

 現状で出ている世界金融危機関係の本の中で、日本語で読める範囲でおススメできるのは、竹森、岩田、原田他の本だけしかない。あとは読まなくていい。それに加えて日本独自の政策現場の裏側までもわかるのが、高橋洋一さんの一連の著作であり、本書はその最新ヴァージョンである。1月末までの状況をいれてあるのでその意味でも最新であり、特に今回は盟友である長谷川氏とのタッグで、いままでとは比較にならないほどの毒舌を発揮している。


 政策的な話はこのブログの読者には耳にタコであろうかたすっとばす。以下では簡単に長谷川氏がからんだことでさらに明瞭になる、高橋・長谷川両氏による、日本の政策当局がなぜまともなマクロ経済政策を行えないか、ということを「官僚帝国」批判とからめた箇所だけ紹介することにしておく。


1)なぜ日本銀行はCP買い入れに消極的で、それを日本政策投資銀行にやらせたがるのか? →財務省と結託して、その財務官僚の植民地保持(民営化阻止)のため。しかも政投銀がCP購入すると市中のマネーは増えず緩和効果がきわめて限定的に。高橋さんは言ってないが、日本銀行は自行のバランスシート悪化を極端に嫌うために財務省との協調はありえる。

 この高橋発言に、僕が付記しておくと、この本が最後に書かれた1月末から事態はさらに悪化して、2月3日に産業再生法改正案が閣議決定されたことである。これは資金調達困難な企業に、政投銀が出資かつ出資金の損失の補償もかむというもの。まさに政投銀を守るためには省庁・日銀間で大連立で守るという必死なことを財務省は展開。


2)物価連動国債市場がなぜ崩壊しているか?

 これも別に高橋さんがいっているわけではないが、ネットで散見する見解(リアルでももちろん聞くけど)としてスジ悪な意見として、物価連動債国債市場のデフレ期待情報は市場が歪んでいるので信じられない、というものである。僕はこういう意見は事情通のふりをしたただのアホだといままで思ってきたが、高橋さんもそう思っていたようであるw

http://www.mof.go.jp/jouhou/kokusai/bukkarendou/bei.pdf

 上記のBE率をみて、現状では日本の経済規模を名目でみるとほぼ10年で半減すると人々が思っている、というのが高橋さんの主張である。

 さて物価連動国債市場が崩壊しててもまさにその「壊れているという情報」そのものが意味がある。「問題なのは、これが麻生政権が自画自賛する経済政策と必ずしも整合的とはいえないことです。というのは、麻生政権は、日本は世界でいちばん早く不況から脱するとか、三年で回復とか言っていますが、もしそうであれば、10年間もデフレが継続するはずがない。であれば、物価連動国債の人気はあがるはずです。それなのに、財務省物価連動国債の発行を事実上取りやめたことは、経済政策の効果を疑問視していることを自ら告白しているようなものです」とのこと。まさに市場の歪みがその商品固有のものではなく、日本のデフレ期待の大きさゆえに市場が崩壊している、そしてその崩壊情報こそが貴重な情報である、ということでしょう。同意ですね。

3)続く

続きを書こうと思ったけれども、finalventさんが感想を書かれるみたいなのでそちらに丸投げ 笑

 全体的に官僚からの情報をいかに理解して、「裏」読みするかの準備作業を与えてくれるものとして理解できるかも。

 例えば富士通総研が日銀の総裁コースとしてどのくらい利用されていたか、を論じた箇所なんか面白い(切込隊長の数週間前のあるエントリーとも結び付けるとそれはかなり香ばしい仕上がり 笑)。

百年に一度の危機から日本経済を救う会議

百年に一度の危機から日本経済を救う会議