日本銀行とFRBの違いを一言ぐらいでまとめる

 先日もこのブログで話題になったし、昨日ぐらいから日本の各所でもジャネット・イエレンの発言が注目されている(和訳は暇人さんのところ)。FRBの当事者が日本銀行FRBは違うと強調しているのは、僕みたいな人からみると「日本銀行の政策は反面教師ずら」(なぜか銭ゲバ風)といっているのに等しい。FRBの政策と日本銀行の「量的緩和」を同じ次元で考えるのがいかに間違っているのか、この間の日経の記事みたいな何の問題意識もない記事が垂れ流されなくなることを真剣に祈る。

 さてFRB日本銀行の政策の違いを一言でまとめると

FRBのはマクロ金融政策、日本銀行のは金融システム安定化政策である」*1

 というのに結局は尽きる。前者が失業や物価の安定を目標にしているとすれば、後者は、例をあげれば銀行取付の回避とか銀行の貸出機能の健全化などを狙うものである、ということだ。もちろん日本銀行の政策当局者に「おたくは景気回復を目的にしてませんね」と質問しても100%の確率で否定するだろう。FRBの方でも金融システムの安定を考えていないわけではない。

 しかしイエレンが指摘しているように、FRBは多様な資産の購入などでバラスシートを膨張させていて、それは景気の安定化を実現する多様な手段を採用した「結果」である。他方で、日本銀行当座預金残高目標を設定して、何よりも「時間軸効果」としてしられる金利の期待経路をコントロールすることに大きく貢献しようとした。日本銀行のオペはしかもイエレンが問題点を指摘しているように主に短期国債と貨幣との交換を通じて行われた。この交換自体にはイエレンが指摘したように銀行の金融仲介機能(貸出機能)に特に効果があったとは認められない(この点は当時の当事者の植田和男氏とは異なるかもしれない)。いいかえると金融システム安定化としても日本銀行の政策は問題だったし、もとからFRBのような景気対策としてのバランスシートの膨張・構成の変化を採用するものではなかった、ということだろう。

 ちなみに当時の日本銀行の政策当事者の植田和男氏は、長期金利を低下させる目的で、長期国債の買いオペを検討したことはなかった、と『ゼロ金利との闘い』の中で明言している。それはそうだろう。金融システム安定化が主なる目的であるならば、長期金利低下(設備投資などへの刺激効果あり)を積極的にすすめる意思が弱いのは十分理解できる。翻って、先日のFRBの議事録をみれば、長期国債の買いオペなどもバランスシートの膨張・構成変化の点で考慮されており、それは景気対策の結果として何でもやるという意思の現われでもあるだろう。

 そして上の別エントリーにも書いたが、要するに、この両行の違いは、景気対策を政府とともの協調して行うのか否か、その政策上の枠組みがあるのかないのか、の違いに集約されているように、僕には思える。

*1:はじめ「プルーデンシャル政策」や「プルーデント政策」http://d.hatena.ne.jp/econ2009/20081029と表記したけれども、過去の当事者の用語の使い分けに準拠して修正した。参考にしたのは植田和男『セロ金利との闘い』