「よくある不況」論と金融危機をめぐる四つの神話

 いまこれを書いている現段階でまたもや株価が同時下落しておりますが、僕は相変わらず「よくある不況(そして日本が心配)」論で今後の推移をみておることは何度も書いてきました。

 援軍といいますか、補強する論がでてきました。 
 Where is the Credit Crunch? III( Alex Tabarrok ←おお、彼も「よくある不況」論者じゃないか)
 http://www.marginalrevolution.com/marginalrevolution/2008/10/where-is-the-cr.html
 のエントリーで紹介されたChari, Christiano Kehoeのミネアポリス連銀のエコノミストたちによる論文「Four Myths about the Financial Crisis of 2008」です。これは現時点で利用できる生のデータから直接以下の「神話」を反駁したものです。日本でも貸し渋りなどを問題にする傾向がありますが、以前に紹介した原田仮説でも不良債権の経済の拘束性はそんなに強くないのではないか、という観点(ほかにも安達さんの論説も有用)とこの三人組の論証は相互補完的でしょう。

 反駁されている「神話」は以下の英語の部分。→の右部分は反駁内容をとりあえず書いたもの。

Bank lending to nonfinancial corporations and individuals has declined sharply.→貸し渋りの証拠なし

Interbank lending is essentially nonexistent. →銀行間貸出もちゃんと機能

Commercial paper issuance by nonfinancial corporations has declined sharply and rates have risen to unprecedented levels. →非金融部門のCPが急減したり過去に例のないほどレートは上がってないよ

Banks play a large role in channeling funds from savers to borrowers.→銀行っていまやそんな大きな役割をもってないんだよね。企業の借入れの80%は銀行部門以外からやってるんだよ(ここ重要。銀行部門は重要だけど、それと金融市場の重要性とを等価しちゃうととんでもなく銀行部門を過大評価をすることになる)

上記のデータソース:http://www.federalreserve.gov/releases/h8/Current/
 それとこのデータももちろん重要http://www.federalreserve.gov/releases/h6/current/default.htm(貨幣の縮小はみられない)

なお、TED Spreadはいまこのエントリーを書いている段階で2.53へと減少しリスク軽減へさらに前進中。またA2/P2も4.15へと同じくリスク緩和基調。

(補)しかし今回の金融危機で世界の経済情報への理解が、僕個人は格段に深まったなあ。何事も絶えず勉強が重要だと実感。

(補2)やれやれ、この議論を肯定的しているネットの妄言もあるようですが。確かその種のネットの妄言によればデット・オーバハングが起きるから清算しろ、という話だったのにね 笑。デット・オーバハングの可能性がいま生のデータみたかぎりではどうも起きなさそうだ、というのがこのペーパーの趣旨なのに。しかしなんだか、とっても不幸だよなあ、日本のネット社会。

(補)上記の三人組論文について猛烈な反論も出てきた(http://economistsview.typepad.com/economistsview/2008/10/some-of-the-con.html)。まあ、Alex Tabarrok自身のカスケード論は僕もよく理解できないんだけれども、金融危機をなんとか防衛したから(現状でも信用リスクは高い水準で顕在化しているけれども)上の四つの神話が間違いだなんて暢気なこといえるんだよ、という趣旨であるならばこの猛烈な批判は当たっているでしょうね。いいかえれば金融危機さえうまく回避できればやはり恐慌ぽい現象はこない、と考えれば、この三人組の生データからの反論は今後の不況の読みに十分使えるんじゃないかな。