ハインツ D.クルツ『シュンペーターの未来―マルクスとワルラスのはざまで』(中山智香子訳)


 中山さんから献本いただくどうもありがとうございます。これは個人的にはツボに入った。半分まできた『ポル・ポト』をちょっと脇において、先にこれを読みました。


個人的なツボはやはり最終章の「経済思想史の行方」。経済思想史の意義についてのバランスのとれた見解が披露されている。マーチン・ワイツマンの主張(現存するアイディアを再結合したアイディアは指数的成長を凌ぐ=過去の経済学者のアイディアを再解釈した知識の創造の可能性は有望)を前提に、「経済学の現状の立場から、過去のそれを研究」することだけではなく、それよりもさらに重要な仕事として、「過去の著者たちの立場から経済学の現状を検討することである。経済思想史はアイディアの宝の山である。現存するアイディアを位置づけ直し、結合させる結果として得られるアイディア数増大の可能性は、指数的上昇を超えるほどである」。


 ただ本当に過去から現状を検討する作業をしている経済思想史家はリップサービスの類が大半でしょうね。その点には何の期待も僕はしてません。ただこのクルツ(経済思想史だけでなく理論家としても著名)が、経済思想史の積極的意義を言明したことはいまの日本のごく一部のネット内での目もあてられない低レベルな意見(経済学史家なのに日本経済を語るからだめとか、数学できないからだめとか 笑)への反駁(クルツもそんな意見はアホ、とはっきりはいわないが 笑 見込みのない意見として扱っている)にもなるでしょう。ただしそういう低レベルな意見は別な思惑で動いているので学的論理で反駁されることはないと思いますし、クルツが問題視している欧米での経済思想史へのアカデミズムの制度内での低評価の動きもまた学的な論理で動いているのではないでしょうね。なおワイツマン流の理由から経済思想史の意義を訴えるやり方は、経済思想史だけでなくおよそあらゆる学問の意義として援用できることも自明でしょうから、その意味でもやはり「過去から現状を検討する作業」の実績評価が重要でしょうね。

シュンペーターの未来―マルクスとワルラスのはざまで

シュンペーターの未来―マルクスとワルラスのはざまで


ワイツマンの論文:Martin L. Weitzman. Recombinant growth. Quarterly Journal of Economics, 113(2):33–360, May 1998