食料安保論・食料自給論への批判(若田部昌澄・飯田泰之)


 『Voice』1月号の若田部昌澄さんの論説「農家保護が国を滅ぼす」が掲載されてます。これはいわゆる食料安全保障論を理由に、農家への補助金を要求する政治家の主張への批判というものです。


 食料安保論については、飯田泰之さんの『ダメな議論』でも批判的に検討されてまして、今回の若田部論説とともに参考になります。


 お二人とも食糧安保論の論拠である世界的な食料不足での価格上昇リスク(があるので農家保護せよ、食料自給率上昇せよ論)には、若田部さんは日本が高所得国であるかぎり問題ではない。飯田さんは農産物価格上昇は自由化をしていればむしろ農業部門の発展に寄与する、と基本的に問題視していません。


 さらに農産物の輸出国が日本への輸出を禁止するケース。飯田さんはそもそもこんなケースは戦争状態以外ありえず、それ以外では輸出国にとって日本への輸出は利益になるので行っているのでこの種の禁輸は杞憂である、としています。若田部さんもこの種の政治的危機は国際市場メカニズムが有効であるかぎり、一国だけが禁輸措置をしても大きい問題ではない、といっております。


 共通する見方は、部分を強調して全体をみない(一国からの政治的リスクをみて国際市場の存在を無視するなど)こと、また自由貿易体制とか規制緩和の軽視することなどが、食料安保論の問題点である、とするところでしょうか。


 「日本が本気で食料安全保障をめざすならば、必要なのは食料自給率の引き上げではなく、世界においてよき顧客としての評判を確立することである」とレトリック豊かに若田部論説は書いていますがまさにそうでしょうね。



 

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