タンタンの冒険:青い蓮


 finalventさんが『タンタンのコンゴ探検』について勉強になるエントリーを書かれていた。
 http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2007/07/post_f37b.html


 タンタンの冒険シリーズは、僕は『青い蓮』しか読んでいないが、ここでもコンゴの「土人」風描写はないものの、典型的な日本人のイメージ(出っ歯、細目、眼鏡、ずるがしこい)や中国人も支那服を着た人や苦力のステロタイプのイメージしかでていない。もちろん版元は「コンゴ探検」とほぼ同趣旨の断り書きを掲載している。


 この日本人や中国人の描写を「人種差別的」という批判が国際的に上がったかどうかはしらないが、この『青い蓮』は、過去の大日本帝国の大陸政策への批判としては非常によくできている戯画だ。もちろん勧善懲悪的二元論でしかない(もちろん日本は悪でずるがしこく、フランスと中国は善で理知的であるなど)と指摘するのは容易いだろうけど、ともかくこの活劇コミックは非常にすぐれている。例えば、車が疾走し、それが主人公の横を通りすぎていく遠近法を用いたコマが並んでいるが、これだって表現レベルでの「映画的手法」といえなくもなく、また政治的な戯画(日本側の匪賊による鉄道爆破事件でっち上げでの軍事進出や国際連盟の屁理屈脱退など)を巧みに織り込んだ点で、奥行きが深い「劇画」になっている。


 また日本人悪玉の容姿は上に書いたようにステロタイプだが、その日本人悪玉が非常に精緻な謀略を企てる(タンタンさえも手ごわいと認めるほどに)。しかし彼は策謀の細部にとらわれて大局を見逃してしまうことで(細かいことにとらわれてどんどん事態が拡大しているともみえる)、最後はタンタンに反対に一本とられるのである。32年に書かれた本作はまさに日本の大陸侵攻の性格と欠点を見事に揶揄しているように思える。


青い蓮 (タンタンの冒険)

青い蓮 (タンタンの冒険)


 これを機会にタンタンの読み残しを読んでみたくなった。なお僕の読んだのは、復刻本の廉価版で1,2年前に出たものである。