岡田斗司夫『「世界征服」は可能か』


 下の方のベスト5で今年は裏ベストが不作といいましたたが、さっそくw訂正させていただきます! 裏ベストどころか本格経済論としても読める快著。世界征服がなぜ実現不可能なほど高コストであり、同じ政策目的を実現するにはひょつとしたら市場化が一番では? という問題提起までしているように読め、「死ね死ね団」の経済合理性とピッコロ大魔王のいさぎよい恐怖の美学にあらためて国民経済的意義(?)を見出すこと請け合いである。


 さらに今日の「支配」原理である経済主義とネットを打ち破ることが、現実的な世界征服者が立ち向かうべき障害であり、これが裏返せば先の世界征服の機会費用が異常に高くつくことにつながる、という結論は実に味わい深い。


 本書に注文があるとすれば、「死ね死ね団」のハイパーインフレーション作戦の世界征服コスト削減手段としての妥当性を考察する部分が事実上ないことである。「円」をハイパーインフレで市場から駆逐した後に、物語でも本書でも触れられていないが、「死ね死ね団」は絶対にドル化をすすめると思う。そして経済のアメリカ従属化を通じて、やがて日本をアメリカの州に加えることで「日本消滅作戦」は完了するのである。


 だが国家としてではなく、実際に本当にこの世から日本人を消滅させたいならば、それはデフレを推しすすめ、出生率を経済的要因から徹底的に低下させることで、最後の日本人がこの大地に立つ時期を数百年先から一刻も早いものにするのがもっとも確実である。


 こんな妄想がバクハツすることを許容する異色の経済書として本書の意義は長く……語られることを祈りたい。


「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)

「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書)