友野典男『行動経済学』への補注


 かなり評判がいいので、エインズリー翻訳本を読む合間にペラペラしたらちょっと「むむ」と思ったので、そのことを簡単に。経済学と心理学の関係を友野氏は簡潔にサーベイされてますが、簡潔すぎてやはり日本や・フランス・ドイツ語圏の人たちの重要な貢献がごっそり抜け落ちていますね。


行動経済学 経済は「感情」で動いている (光文社新書)

行動経済学 経済は「感情」で動いている (光文社新書)


 特に経済学と心理学の関連でいえば、当時(1920〜30年代)世界の最先端にいた高田保馬の貢献がやはり重要だと思います。せっかく日本人の「行動経済学」の先人がいるわけですから、日本でも少数の経済心理学行動経済学の入門書としては書いていただきたかったところです。高田は当時の心理学(マクダガート、ジェイムズ、タルドなど)の業績を積極的に吸収して、なぜ長期的な停滞が続くかを心理的要因とでもいう観点から分析しました。それは例えばサラリーマンの職階や報酬の高さそのものが勤労意欲をもたらすという観点を含むものでした。高田はこの心理的な要因が制度や慣習の一部として(具体的には労使間の契約として)労働市場の不完全性をもたらした、と考えたわけです。この不完全性が原因して労働市場は需給が一致せず、長期の失業が顕在化してしまう、という観点です。

 さて、高田の経済心理学に影響を与えたのは、彼の師のひとりである、米田庄太郎でして、米田には『経済心理の研究』(1920年)という経済・社会・心理の各学問分野にまたがる興味深い貢献があります。米田のこの学際的なアプローチは、日本のさまざまな差別の問題に適用されたのですが、高田もまな賃金格差の問題をはじめ、雇用における「差別」を経済心理的に追及しようとしました。この過程で友野氏の簡潔すぎるサーベイででてきたマーシャル、ヴェブレンらにも出会いましたし、ラッセル、パレート、ウィーザーらの業績とも共鳴したのでした。

 とか書きましたが、時論でなくて、専門研究の両輪として高田保馬と福田徳三の研究をいつまでも抱え込んだまま公表してない、田中の宣伝不足もあるのは認めますが。(^^;)。日本人の経済学者もなかなかすごいんですよ、いや、ホント。


ちなみに故人に絞っての日本の経済学者ベスト5をあげるとしたら、石橋湛山が別格で1位で、高田、福田、森嶋通夫高橋亀吉 になると思います。