『ヤバい経済学』と安部譲二

 レヴィット&ダブナー(望月衛さん訳)『ヤバい経済学』の中で冒頭近くで目を引くのは次の記述でしょう。


 「何年も前、元力士2人が八百長を大々的に暴露したーーそのうえ、話は八百長にとどまらなかった。不正な取組以外にも、麻薬に不倫、賄賂に脱税、さらに日本のマフィアであるヤクザとの深いつながりまであると彼らはぶち上げた。2人は脅迫電話を受けるようになった。1人はヤクザに殺されると友だちに言って怯えていたそうだ。それでも彼らは東京の外国人記者クラブで記者会見を開くことにした。しかし、そのちょっと前に2人は亡くなったーーほんの数時間違うだけで、同じ病院で、同じような呼吸疾患で死んだのである」(邦訳54頁)。


 そういえばあったな、と思い出しましたが、この事件の詳細が急に知りたくなったのは、もちろん僕だけではないですよね?


 http://d.hatena.ne.jp/shinichiroinaba/20060428#p2での稲葉さんと松尾さんのやりとりみてますます調べたくなるオレがいたわけです。



 《松尾匡 『やっとちょっと時間が取れて一気に読んだ。
  耶馬渓おもしろすぎ。
  八百長告発した元力士って誰ですか。』

  shinichiroinaba 『注に書いてあったような気が……「入院中に謎の死を遂げた」とか……ガクガクブルブル。』

  松尾匡 『ここにありました。
  http://sports9.2ch.net/test/read.cgi/sumou/1137154753/-100』》



というわけで怪死ハンター安部譲二氏の『日本怪死人列伝』(扶桑社)を読んでみますた。

  お亡くなりになったのは元大鳴戸親方と橋本成一郎のおふたりでした。安部氏の記述によりますとおふたりは病死する十二日前に一緒にゴルフを楽しみ、十日前にはソープランドにおふたりででかけ、いたって元気快活だったとのことです。この事実だけですと本当に怪死=謀殺説が信憑性を帯びますが、そこはさすが怪死探偵(ハンターはどうした)安部先生。見事な実証?と推論を積み重ねております。おふたりの死因は肺不全と重症肺炎だそうです。まず元大鳴戸親方が発症しまして、それを見舞いにきた橋本氏もまもなく発症。ともに糖尿病を患っておりまして通院していた病院でお亡くなりになったのです。ここで安部氏は遺族の証言からその死因が在郷軍人病(レジオネラ肺炎)であることに注目します。

 結論をいいますと、安部氏の推理では、仲良く行ったソープランドで玉の汗がでるほど頑張りすぎてぜいぜい体力が衰えたところに、部屋の冷房装置の中で繁殖したレジオネラ菌入りの寒気を思いっきり、ふーと肺の奥深くまで吸い込んでしまった、それだけ頑張ったために細菌に侵されたのだ、という(ぼぼそのそのままの表現です念為)のが安部氏の推論のすべてです。

 ところでこの安部氏の本、時間を潰すには最適な読み物でして、その話術に引き込まれてしまい面白く読了いたしました。

 ちなみに下がレジオネラ菌です。なお安部氏の話はあくまで推論ですので念為。