マルクス生誕200年と記念切手

2018年はマルクス生誕200年(1818年の5月5日に生まれた)なので日本でも大規模なシンポジウムが開催されるし、出版物も多い。資本主義国でこれだけマルクスがいまだに読まれ議論される国も珍しいのではないかと思う。

 

僕はマルクスの考えには反対なのだが、ひとつだけ生誕200年を記念して個人的に集めてるものがある。記念切手だ。いくつかの国で生誕200年を記念して切手が発行されている。中国、ドイツ、ロシア、ベトナムの四か国を確認できる。これは前回?の生誕150年に比べると、ふたつの特徴がある。

 

ひとつは量的な変化であり、もうひとつは質的変化である。

 

鈴木鴻一郎の『資本論徧歴』(1971)によれば、生誕150年のときは計15枚の記念切手が発行されている。ブルガリアチェコスロヴァキア東ドイツソ連、西ドイツ、アルバニアハンガリー北ベトナム、モンゴルの国々である。複数枚発行しているので国の数の方が少ない。このときは資本主義国として初めて西ドイツでマルクスの切手が発行されて、鈴木は先の書籍の中で、このことに注目して「資本主義国におけるマルクス台頭の突破口になるということかも知れないからである」と書いている。

 

鈴木の予測はソ連の崩壊、東欧や中国の市場経済への移行などで裏切られて面があるが、他方でリーマンショック以降の世界経済の動向をうけて世界的にマルクスが再注目されているのも事実であり、なかなかマルクスは死滅していない。

 

ただし切手の世界をみれば量的にはマルクス人気は衰退していて、今回は四か国だけがいまのところ確認できて、生誕150年のときに比べて激減である。(付記)内藤陽介さんから先の四か国に加えて、カナダ、キルギスルクセンブルクでの発行があるとのご教示を頂いたので量的にはほぼ拮抗していることになる。訂正したい。

 

質的な変化としては、生誕150年のときは西ドイツが資本主義国として初めてマルクス切手を発行したのだが、今回も統一後のドイツで発行している。前回の西ドイツのときはデザインが赤で染まり斬新だという評価があった。今回のドイツ発行のものも秀逸である。デザインは赤から黒白にかわり、しかもマルクスの肖像をはっきりとはみせてない。公募のデザインを勝ち抜いたThomas Mayfriedの作である。経緯などはここに詳しい。

 

僕が保有しているものを以下に。赤色のが西ドイツの生誕150年、黒白がドイツで今年の生誕200年を祝うもの。赤から黒白(しかも肖像の不鮮明化)に変化したことになにか意味をとることもできるかもしれない。例えばマルクスの権威を相対化しているのではないか、とも解釈できる。面白い。

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それと質的な変化としては、中国がマルクスの宣伝に今年はかなり力をいれたことだろう。生誕150年のときはソ連がやはりマルクス切手の世界をリードしていたのとは大きな違いに思える。

 

中国の熱のいれようは、内藤陽介さんの以下の記事でもわかる。

郵便学者・内藤陽介のブログ 中国:習近平以降

 

個人的には中国のマルクスを使った扇動にはツッコミどころ満載であり、それについては『電気と工事』10月号に「マルクス生誕200年の経済学」と題する小文を寄稿した。

 

(付記)質的な点では、内藤陽介さんがカナダ、キルギスルクセンブルクでの発行をご教示頂いたことを勘案しなくてはいけない。カナダ、ルクセンブルク、そしてドイツも含めると旧西側諸国でのマルクス切手の発行が今回は多くみられるのが特徴になる。

 

ベトナムで発行されたものはまだ持っていないが、以下に僕の保有している中国、ドイツ、ロシアと中国の初日カバーを。切手は上からロシア、ドイツ、中国二枚である。

 

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ベトナムのは以下。

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また付記でふれたカナダ、キルギスルクセンブルクもまだ保有していない。

 

マルクス切手収集の「大家」は、鈴木鴻一郎から杉原四郎に移った。杉原先生からはご存命のときに切手収集についての短文も頂戴したことがあり懐かしい。

 

最近でもまだ手元にきてないが、マルクスカリカチュアを扱ったドイツ語の研究書がでていて、日本の研究者も貢献している。そこにはマルクスの切手の分析もあるらしい。読むのが楽しみである。

 

Gruess Gott! Da bin ich wieder!: Karl Marx in der Karikatur

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