岩田温『「リベラル」という病』(彩図社)

 岩田温さんから頂戴しました。感謝です。すでにSNSでも書いたのですが、岩田さんの教養を重んじる姿勢が鮮明に出ていて、その意味で本書でいう自称「リベラル」たちの反知性主義とは真逆の良書です。

 

 個人の自由を最大限尊重し、社会的弱者の声に耳を傾け、過剰な政府介入よりも漸進的な改革を望む(なぜなら人間の理性には限界があるから)という立場を岩田さんはリベラルと言っています。なら僕もリベラルです。

 

 しかし本書で岩田さんが批判する日本型リベラルはそうではない。教条主義的で歴史の教訓を参考にもしない、自分達の価値判断と事実判断の区別がうまくできていない、そして反知性的な態度をもつ人たちを日本型リベラルとしています。

 

 本書の個々の日本型リベラルの識者への批判的検証は有意義です。池上彰、サンモニの出演者たち、内田樹氏らへの批判は切れ味がするどい。また白井聡氏のレーニン解釈については、その解釈としての面白さは評価しても、日本の現実への適用については極論すぎて間違っていると批判しています。この白井論は有意義ですね。

 

 さらに慰安婦問題についてのバランスのとれた記述は秀逸です。日本型の「保守」とは異なり、またもちろん日本型リベラルとも違う、歴史的洞察と社会的弱者への共感的視線にみちた、僕には良識的な見解が展開されています。また韓国政府の政策のミスとしての今日の慰安婦問題の混迷も指摘していて納得できます。

 

 憲法9条については岩田さんは現実的な観点からの改憲を唱えますが、僕は違う現実観点で改憲には消極的です。ただこれは理知的な議論が可能な問題として憲法改正問題も本書で論じられていることが重要です。イデオロギーではないのです。

 

 ケストラーの『真昼の暗黒』を利用した共産主義批判や、また河合栄治郎自由主義=人格の成長、を論じた章は、本書の中核にある闘うための教養を得るには最適な箇所です。

 岩田さんには今後とも意欲的に論を展開してほしいと思いました。

 

「リベラル」という病 奇怪すぎる日本型反知性主義

「リベラル」という病 奇怪すぎる日本型反知性主義