栗原裕一郎「ポスト・トゥルース」『小説すばる』2018年1月号

 栗原さんが『小説すばる』の「今を読み解く12のキーワード」のひとつとして寄稿したもの。ポストトゥルースポスト真実とも日本で表現されるもの。栗原さんはヒースの『啓蒙思想2.0』や古谷田 奈月の『リリース』などを題材にして、この用語をめぐる日本と世界の状況や見取り、あるいは救いようのなさをとても簡潔に書かれていて勉強になる。

 ヒースの本はいままで『反逆の神話』と資本主義なんとか、しか読んでなかったが(前者は傑作)、いままでどう自分の中で利用するのかいまいちわからないところがあった。ただ栗原さんの説明では、このヒースの観点からのポスト真実とは、「直観」の「理性」への勝利という見取りであり、これはとても納得できる。例えば、僕は安倍政権の経済政策を(他の政治勢力の経済政策に比較して)よりましで、いまの日本では結果“最善”ゆえに推奨しているが、これは反安倍(だけではないが)からは「安倍信者」と断定されている。その種の反安倍系の批評家が、かって僕に「私の直観で安倍批判を行っている」と言われたときにはかなり驚いた。とりあえず政策は直観で判断してはダメなんだが。最近では、アマルティア・センアベノミクスを肯定的に評価したことをもって、センを「ネトウヨ」呼ばわりする人もでてきて、終末感がある。おそらく安倍首相には人を狂わすフェロモンでも出ているとしかもう説明のしようがないが(笑。

 話はずれたが、ヒースは「直観」に優位する「理性」の再構築、再啓蒙運動を期しているのだろう。面白そうなのでこの機会に読んでみたい。