J.S.ミルの女性論研究メモ

 twitterの方で西田藍さんがJ.S.ミルに注目するコメントをしていたのでそれに触発されて、以下にミルの女性論をめぐる簡単な文献メモを。昨年の同テーマをめぐる研究会「「初期ミルの女性論と文明社会論」」での参考文献に多少の付加をしたものになります。

 まずミルの女性論の古典は『女性の隷従』(女性の解放とも題される)。岩波文庫が利用可能。題名をどう日本で訳してきたか問題というのはいまだに論点になると思います。
原典はトロント大学のJ.S.ミル全集が完全公開されているのでそれがベスト。

女性の解放 (岩波文庫 白 116-7)

女性の解放 (岩波文庫 白 116-7)

トロント大学のミル全集での『女性の隷従』収録の巻。ミル研究はぶっちぎりにオンラインの環境が整備されている。
http://oll.libertyfund.org/titles/mill-the-collected-works-of-john-stuart-mill-volume-xxi-essays-on-equality-law-and-education

もちろん『女性の隷従』だけではなく、『経済学原理』の女性の賃金論、分業などは極めて重要な議論。そして『原理』と『隷従』でミルの女性観をどう考えるか、いわば分裂しているか、統一的な観点なのかをめぐる解釈論争がある。

ミルの評伝は日本人の手になるものとしては以下がお勧め。

J.S.ミルと現代 (1980年) (岩波新書)

J.S.ミルと現代 (1980年) (岩波新書)

ミルの自伝はとても面白い。評注とか自伝草稿とか知人のベインの評伝とかあるけど、どれもこの岩波の自伝の優れた訳本を読んでからで十分かと思います。

ミル自伝 (岩波文庫 白 116-8)

ミル自伝 (岩波文庫 白 116-8)

ミルの女性論については、本格的研究の先駆者は水田珠枝先生の以下のセミナー記録。最近読んだけどまったく古びてない。逆にそれだとまずいかも 笑。

90年代では、『J.S.ミル研究』に収録された上杉健太郎氏の『ミルの女性論ー『女性の隷従』を中心にー』が目につく程度。欧米ではM.A.Pujolの研究が意欲的で日本の研究水準よりこの時点では上かもしれない。そういえば、90年代ではアダム・スミスの女性論をめぐる何冊かの面白い本もあった。

J.S.ミル研究 (イギリス思想研究叢書)

J.S.ミル研究 (イギリス思想研究叢書)

M. A. Pujol, Feminism and Anti-Feminism in Early Economic Thought,. Edward Elgar の中に収録された Adam Smith, John Stuart Mill, Harriet Taylor and Barbara Bodichon 。
http://www.e-elgar.com/shop/feminism-and-anti-feminism-in-early-economic-thought

日本のミルの女性論研究は、以下の安川氏の書籍で「旧世代」的解釈はピーク。

フェミニズムの社会思想史 (明石ライブラリー)

フェミニズムの社会思想史 (明石ライブラリー)

21世紀はミルの女性論研究の新展開が花開き始めている。主導しているのは、舩木惠子氏と前原鮎美氏ら。そして昨年発表をきいた山尾忠弘さんも論文になるのを期待。欧米でもいろいろ面白い研究が出ている。

舩木惠子氏の研究は以下に収録されている諸論文を。それと最初の本の冒頭にある櫻井毅氏の論説もヴィクトリア朝の女性と女性経済学者の地位を考える上できわめて有益。

ヴィクトリア時代におけるフェミニズムの勃興と経済学

ヴィクトリア時代におけるフェミニズムの勃興と経済学

以下の書籍に収録された、舩木「ミルの賃金基金説とフェミニズム」は重要。
マルサス・ミル・マーシャル―人間と富との経済思想

マルサス・ミル・マーシャル―人間と富との経済思想

前原鮎美氏は新進気鋭で以下の論説は展望にも優れてとても参考になった。
「J.S.ミル『経済学原理』と『女性の隷従』におけるフェミニズム
http://repo.lib.hosei.ac.jp/bitstream/10114/12734/1/grad_77_maehara.pdf
こちらはまだ未見。上の論文ヴァージョンかも。
「J.S.ミルのフェミニズムと「完全なる同権の原理」 : 『経済学原理』と『女性の隷従』との関連で」
マルサス学会年報 (26), 55-93, 2017

J.S.ミルの女性論と彼の未完の構想であった性格形成学との関連はどんなものだったのだろうか? 

次の諸論文は、ミルの女性論の前提を考える上で有益。
原直子「J.S.ミルの利潤率低下論と「停止状態」論 」https://www.jstage.jst.go.jp/article/peq/47/3/47_KJ00009390369/_article/-char/ja/
小沢佳史「停止状態に関するJ.S.ミルの展望 : アソシエーション論の変遷と理想的な停止状態の実現過程」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/peq/49/4/49_KJ00009361309/_article/-char/ja/

以下は山尾忠弘さんの報告を聴いたときに面白そうだな、と思った文献

Virginie Gouverneur
Mill versus Jevons on traditional sexual division of labour: Is gender equality efficient?
The European Journal of the History of Economic Thought Volume 20, 2013 - Issue 5
http://www.touteconomie.org/afse2014/index.php/meeting2014/lyon/paper/viewFile/350/185

Nancy J. Hirschmann
Gender, Class, and Freedom in Modern Political Theory

Gender, Class, and Freedom in Modern Political Theory

Gender, Class, and Freedom in Modern Political Theory

Jonathan Riley のMill's feminism: Liberal, radical and queer も面白そう。以下に収録

John Stuart Mill and the Employment of Married Women: Reconciling Utility and Justice*. By. Nathalie Sigot and Christophe Beaurain
https://hal.archives-ouvertes.fr/hal-00637276/document

現時点のミル研究の展望はとりあえず以下が便利

 新しい資料,新しい思想?―近年のJ. S. ミル研究―*
川 名 雄一郎
http://jshet.net/docs/journal/56/562kawana.pdf