飯田泰之『経済学講義』(ちくま新書)

 ミクロ経済学マクロ経済学計量経済学という経済学の基本三科目の要旨をコンパクトにまとめた本。経済学の勉強でいえるのは、まずざっと全体像を把握することが重要。細かいところは勉強を続けていればそのうちわかるようになるもの。まずはともかく基本を一周するのが勉強のコツ。それがだいたい勉強ができる人の秘訣のひとつだと思うが、本書はその精神に則って、さらにムダなく三科目をまとめている。

 しかもここがポイントだが、経済の最新の話題や時論的なものにもさりげなくふれているところが、飯田講義の特色だろう。ミクロ経済学では、ゲーム理論の解説が丁寧で、今年ノーベル経済学賞を受賞した分野である行動経済学の話題も簡潔に書いていてここだけ読んでも面白い。

 さらにマクロ経済学では、GDP統計を念入りに解説している。これは後の計量経済学のためのステップともなっつているからだろう。そして「失業とインフレーション」の章は、ミクロ・マクロパートの中では最も時論性が高くまた考察も丁寧で専門家も熟読すべき内容だ。実質賃金の動向と雇用の動きが、例えば「ニューカマー効果」などを通じて解説されている。さらにフィナンシャルアクセラレーター効果が、失業とインフレ(期待インフレ)の関連を解明する重要なキー理論としてこれも丁寧に解説されていて、初心者のみならず専門家も一読して復習するといいだろう。

 計量経済学は、自然科学との差異を強調しながら、ランダム化比較&四分割表、単回帰、重回帰の解説は政策評価を自分で読むときのコツになるだろう。さまざまな白書や政府の資料に書かれている統計・計量分析の結果を自分で判読する際の基礎知識はほぼすべて与えられている。もちろん読むだけでなく計量・統計は自分で分析することが重要だが、それはまた別な本格的なテキストが必要だと思う。冒頭にも書いたが、経済学をともかく一周したい人には便利な本である。

 ちなみに二色刷なのが豪華だが、ちょっとやる意味があったのかは謎w

 

経済学講義 (ちくま新書1276)

経済学講義 (ちくま新書1276)