北朝鮮リスクの経済学(2017年9月7日配布レジュメの一部分)

 昨日のトークイベントで配布したレジュメの一部を以下に。特に対策部分はもっと考えないといけないが、要するに「全部やれ」というのが基本ではないかと思う。

トークイベントご一緒の、松永かなみさんとの写真(日美子さんのフェイスブックから無断流用w)。

北朝鮮リスクの経済学

安全保障は公共財。多国間にまたがるケース、グローバル公共財。
排除可能性:対価を払わずに消費する人(フリーライダー)を排除できる
競合性:財・サービスをある人が消費したら、他の人は消費できない。

競合性高 非競合性
排除可能性高 私的財 クラブ財
排除可能性低 オープンアクセス財 純粋公共財


私的財…競合性と排除可能性。クラブ財…非競合性と排除可能性。
オープンアクセス資源(例:牧草地。コモンズの悲劇)…競合性、排除不可能性
クラブ財&オープンアクセス資源=準公共財
公共財…排除不可能性、非競合性。国際公共財…地球環境(二酸化炭素排出問題、テロ防止など)

ゲーム論の適用
プレイヤー 二国(韓国と日本)
利得行列
囚人のジレンマ
安全保障(防衛)は、国際公共財(非排除性&非競合性)をもつ財であり、冷戦構造のなかでは、米ソがその供給を大きく負担し、日本・韓国、NATO諸国などはそれに「ただ乗り」していた。これを浜田宏一は戦略的代替として説明した。
 例えば、冷戦の状況の中で、日本・韓国のような東アジアで(対ソ連などへの)協調行動が必要な第1国と第2国は互いにフリーライド(ただ乗り)してしまう。相手が防衛責任を負って、自分がただ乗りすれば、相手の利得はゼロで、自国は3の利得を得る。以下の利得行列のケースでは、日本も韓国もともにただ乗りを選んでしまう。
 二国で協力すれば得ることのできる利得は、両国でただ乗りを選ぶケースよりも大きいが、そのような協調戦略を選ぶ動機が、日本にも韓国にも発生しない。なぜなら日本がただ乗りから防衛責任の戦略を採用することは、以下の表から「損」だからである。韓国も同様。ナッシュ均衡の例。

冷戦前の利得構造:戦略的代替
囚人のジレンマ 国際公共財の過小供給

防衛責任 ただ乗り
防衛責任 (2,2) (0,3)
ただ乗り (3,0) (1,1)

 他方で、米国は対ソ連の関係で全世界的に過大な防衛費を負担する動機づけがある。冷戦の時代の韓国・日本は自国内に過大な米軍を抱えることで、地域内での国際公共財の最適供給条件を維持していた可能性がある。浜田宏一はこの大国(米国)に防衛費を多く負担させようとする戦略を「戦略的代替」とした。

冷戦後でも日本、韓国ともにフリーライダー戦略を採用していることにかわりはない。ただし米国は世界的に過大な防衛費を負担する動機が低減していく。日本・韓国の国際公共財の過小供給の顕在化。さらに特殊要因としての「日本の失われた20年」による防衛費実質0%成長(現状の日本の防衛費は潜在的防衛費の半額程度)。
東アジア安全保障の不安定化へ。

北朝鮮リスク以後の利得構造、その可能性

北朝鮮の核開発。米国による日本・韓国防衛への不安はどのような帰結を生むか? 
北朝鮮リスク後の利得構造を示す利得行列は以下に。お互い現状維持が一番いいと思っていても、自分の国だけが現状維持をして相手が軍拡をするとまずいことになる。そこでお互いが軍拡を選んでしまう。これはプレイヤーを日本と韓国、日本(韓国)と北朝鮮に置き換えても成立する話。浜田宏一によればこのケースは「戦略的補完」のケース。

東アジア軍拡競争のケース 囚人のジレンマ

軍拡 現状維持
軍拡 (1,1) (3,0)
現状維持 (0,3) (2,2)

 軍拡競争のひとつのパターン「核兵器競争」。イェール大学ポール・ブラッケン教授ら。
 日本:核保有? 米国との核シェアリング?
 韓国:米国の戦術核再導入の議論高まる



出所:産経新聞

経済制裁の論点

日本からは見えない“国連少数勢力”としての北朝鮮制裁賛成派。
中国の石炭輸入全面禁止→マレーシアなどが代替。同じことが石油の輸出禁止にもいえる?
第一次核危機の経験。危機発生→外交での核開発“休止”→国際機関の査察⇒核開発の事実上の進行を許す結果に。今回も同じか?

金融制裁…日本側の対応ほぼ出尽くす。金融制裁の有効性? 成功事例か? 米国のマカオの銀行口座凍結(2005年)。

囚人のジレンマの利得構造を変える必要。

 原則:各国が短期的利得よりも長期的利得に重きを置くことが重要。囚人のジレンマの繰り返しゲームでは、将来利得に対する割引因子が十分に大きいことが、各国の協力を成立させる(トリガー戦略、しっぺ返し戦略)。

 軍事支出は、短期的には(総需要不足の場合では)景気刺激効果をもつ。だが長期的には、民間消費・投資を圧迫し、非効率的な経済をもたらす。

(配布したレジュメはまだあるけど一応ここまで掲載)。

参考文献は配布してなかったので以下に。

鈴木基史・岡田章『国際紛争と協調のゲーム』有斐閣
浜田宏一「冷戦後の防衛構造ー戦略的代替から戦略的補完へ」『来世紀への軍縮と安全保障のプログラム』多賀出版
吉田和男・藤本茂『グローバルな危機の構造と日本の戦略』晃洋書房

国際紛争と協調のゲーム

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