上念司『タダより高いものはない』(イースト新書)

 経済評論家上念司さんの新作です。題名は、No Free Lunch に近い日本語でしょうか? 二部構成になっていて、それぞれ現在の経済問題について上念さんらしい批判的な視点からの解明が行われています。ちなみに本書を通読すると、与党内のポスト安倍候補や民進党などの野党の経済政策観に絶望を抱きます。本当にまともな政治家はでてこないのでしょうか?

 小泉進次郎氏の「こども保険」が、保険法違反であり、実は増税でしかないこと。教育への投資は非常に見返りの大きいものであり、国債を発行して薄く広く各世代がその教育投資への負担を担うことが理想であることを上念さんは主張しています。

 最低賃金については、その引き上げが貧困対策になるよりも、むしろマクロ経済政策の方が効率的でまた現実的でもあることを解説しています。最低賃金のみの引き上げだとかえって失業率が高まるというのが上念さんの主張です。

年金、医療費、そして老後の住居費などについての考察も非常に面白いですね。特に不動産投資の非効率性については具体的なエピソードも多く勉強になります。湯沢にあるリゾートマンションのとても低い落札価格が実はとんでもないまやかしであり、安易に買ってしまうと負債を増やしてしまいかねないこと、さらに首都圏の田園都市線沿線もまた越後湯沢と同じ現象に将来みまわれるかもしれないことなど、不動産論として面白いです。

河野太郎氏の国債論への徹底的な批判も爽快です。河野太郎氏の経済政策観は私見でもマイナス100点ぐらいなのですが、本書ではその理由も丁寧に解説されていてまさに我が意を得たりです。

TPPの今後の設計、郵政「半」民営化の弊害なども面白い話題で、さまざまな観点から今日のアベノミクスそしてポスト・アベノミクスの課題もみえてくる経済論でした。