ウィリアム・ボーモル氏が逝去された。享年95歳。ノーベル経済学賞級の貢献をしていながらついにその栄誉に俗することなく終わった。
ボーモルの業績については「ワシントン・ポスト」に追悼文がでているのでそれを参照されたい。
https://www.washingtonpost.com/national/william-baumol-economist-who-found-logic-in-rising-health-care-prices-dies-at-95/2017/05/05/25439850-3108-11e7-9534-00e4656c22aa_story.html
以下では、僕自身がボーモルから影響をうけた点を簡単にメモ書きする。
1)売上高極大化仮説
企業の行動目的は、利潤最大化といわれるが、それに対してボーモルは『企業行動と経済成長』の中で、売上高極大化説を唱えた。この説については、早稲田大学の学部生のときに講義(伊達邦春、柏崎利之輔両先生)やまたそれらの先生のテキストで読んでいた。実際に自分がそれを使って何か論じたことはないが、経済の見方には代替的な視点があることを教えて頂いた。
2)コスト病、文化経済学との関連
『AKB48の経済学』やタイラー・コーエンの『創造的破壊』などの解説など、自分の文化経済学にかかわる著作や貢献の中で、ボーモルのいわゆるコスト病の分析はとても参考になった。上記のワシントンポストの記事では、医療関係へのコスト病の応用もある。
コスト病は、例えばAKB48は定期的な劇場公演を活動の中心にしているが、他方でそのような舞台講演の生産性の上昇には限界がある。他方でメンバーの機会費用(他のテレビや雑誌媒体に出る機会費用)は上昇してしまう。このコストの上昇をどのように処理するか、が大きな問題になる。コスト病の生み出す問題やその対策については、コーエンの『創造的破壊』やまたその田中による解説に詳細に書いたので参照されたい。
3)コンテスタブル市場の理論のデフレ論争への応用
コンテスタブル市場の理論を、21世紀の初めころ、池尾和人氏がデフレ論争に応用して唱えたことがある。彼の主張は、日本は海外の企業との潜在的競争の可能性(コンテスタブル)に直面した結果、実際には中国などあまり製品が入ってこなくてもその潜在的競争の圧力で物価が下落(デフレ)がもたらされるというものである。このボーモルの主張のデフレへの援用に対して、我々は『エコノミスト・ミシュラン』などで、そもそもボーモルの主張は特定産業レベルの話であり、個別価格の話には応用可能かもしれないが、経済全体の価格つまり一般物価水準を決定するものではない、というものだった。
いずれにせよ、ボーモルの業績については、いままでもいろいろな学恩をうけた。ここにご冥福をお祈りしたい。
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