非常に読みやすい中級ミクロの傑作の登場:スティーヴン・レヴィット他『レヴィット ミクロ経済学 基礎編』(安田洋祐監訳、高遠裕子訳)

 『ヤバい経済学』で世界的に著名なスティーヴン・レヴィットが手掛けるミクロ経済学はどんなものか。応用にすぐれた、洞察に満ちたテキストになるだろうことは実物を見る前から多くの人が期待していただろう。2013年にでた原書はその意味では期待を裏切らなかった。その翻訳が本書である(第二版もでているが、安田氏の解説にあるように大きな修正点はない)。
 
 本書は日本で翻訳を待ち焦がれていた人達の期待を十分にみたしている。ミクロ経済学を基礎編と発展編にわけて二分冊での翻訳の刊行である。基礎編にあたる本書は、第一部の基礎概念、第二部の消費と生産、そして第三部の市場と価格の冒頭の一章を収録している。

 本書は中級ミクロの経済学とはいえ、丁寧に読んでいけばほぼ独習ペースで、経済学の知識のまったくない大学生や社会人にも容易に読むことができる。それだけ解説が明瞭で、かゆいところに手が届くように配慮している。また中級ミクロ経済学らしく数式を用いた練習も豊富であり、そのため国家?種などの公務員試験や経済学検定試験、そして大学の定期試験対策としてもすぐれたものといえる。

 また各章はそれぞれが学習の習熟度を確認してすすむように工夫されているのも初学者にはいいだろう。繰り返すが中級とはいえ、それは初級からの無理のないステップアップを本書で実現できるお得な一冊である。

 また経済学関係の学部を目指す高校生には、合格後から入学までに読む本としてこのテキストの基礎編の第一部を特におススメしたい。ここだけ読んでおくと、大学での経済学の学習が実にスムーズになるだろう。安易に非専門家による経済学の“わかりやすい”本に手を染める必要もない。やはりミクロ経済学のプロが書いたテキストを読むのが間違いのない学習の近道だ。

 訳文も実にこなれている。いまはプロの翻訳家の方に訳していただき、それを専門の経済学者がチェックすることが望ましい分業といえる。その意味で今回の監訳者と訳者のタッグは理想的なものだろう。

 レヴィットといえば、なによりも『ヤバい経済学』で展開していた、ユニークな実例をともなった分析である。本書でもそれがいかんなく発揮されている。レヴィットだけではなく、共著者のグールズビー、サイヴァ―ソンもそれぞれ専門家としての貢献をしているとは思うが、なんといってもレヴィットのミクロなのである。

 ミクロ経済学の最先端の話題までを含めて、本格的に学ぼうとする人達に安心して薦めることができる一冊である。
 

レヴィット ミクロ経済学 基礎編

レヴィット ミクロ経済学 基礎編