ファラッド・コスロカヴァール『世界はなぜ過激化(ラディカリザシオン)するのか?』

 直近のトルコでのテロの悲劇も宗教的な「ジハード主義」との関連が報道されている。コスロカヴァールの本書は21世紀になってますます過激化Radicalizationするジハード主義のグローバルな局面に照準を合わせて、その社会学的特質を具体的に解説したことで類書にない特徴を持っている。コスロカヴァールはフランスの社会科学高等研究所で社会学を専攻する教授であり、例えばフランスの刑務所がジハード主義に立脚した過激化を抑制するどころか、むしろその温床・養育の場にさえなっていることを実証した研究で著名だ。その成果は本書で取り入れられている。

 著者のいう過激化概念は、個人の信奉する宗教やイデオロギーに立脚する暴力との一体化、個人の「自己表現」としての暴力といえる現象だ。国家や特定の組織さえもこの過激化の前提にはなっていない。例えば欧米の若者が自宅でインターネットを通じて、特定の教義を信じそのために暴力を自分の自己実現の手段として選択するという現象があげられる。イデオロギー&宗教と暴力が不可分に結びついているので、その教義に背く「異端者」たちへの暴力の行使は彼らの精神世界での自己実現としてとらえることができる。

 コスロカヴァールはフランスの郊外にある移民中心の街での若者が貧困や社会的差別からこのような過激化に走る傾向を指摘してはいるが、むしろ中間層や経済的に富裕なものにもこの過激化の波がひろがっていることを重視している。また女性の参加にも注目している。

 原書は数年前なので、それを補うここ1,2年の状況を踏まえた長いインタビューや、訳者の解説も丁寧でフォローが効いている。現在の世界情勢を考える上では必読の書だと思う。少なくとも僕はとても役立った。

世界はなぜ過激化(ラディカリザシオン)するのか? 〔歴史・現在・未来〕

世界はなぜ過激化(ラディカリザシオン)するのか? 〔歴史・現在・未来〕