お正月特別企画:2016年心に残る経済書ベスト20発表!!(ベスト10日本人著者全コメント公開)

 2012年に始まって今年で四回目(2014年は実施せず)の年度ごとの経済書ベスト20ですが、今年も2015年12月から16年11月までに出版された経済書の中から基本三冊をtwitter(メール、メッセージなどでも可能)で、ハッシュタグをつけて選らんでいただき、毎年100名前後の方々に投票いただいています。投票結果は毎年このブログに掲載してきました。
いままでの一位は以下のような本でした。

2012年第一位 ポール・クルーグマン
    『さっさと不況を終わらせろ』(早川書房
2013年第一位 田中秀臣編著
    『日本経済は復活するか』(藤原書店)
2014年 実施せず
2015年 原田泰
    『ベーシックインカム』(中公新書

今年も劇的な投票結果でした。まさに新時代の開幕といっていいかもしれません。なおベスト10入りの方々のコメントは大晦日やその前日に依頼してしまったために全員のみなさんからまだお返事頂戴していません。随時更新して加えたいと思います。よろしくご容赦ください!

では、さっそく第一位! そして第二位のダブル! 新時代来る!

第一位 井上智洋『ヘリコプターマネー』(日本経済新聞社
第二位 井上智洋『人工知能と経済の将来』(文春新書)
著者から投票してくださった方々へ

私の書いた本『人工知能と経済の未来』が第二位に、『ヘリコプターマネー』が第一位に選出されたことを光栄に思います。投票してくださったみなさま、誠にありがとうございます。

元来怠け者の私は大変遅筆で『人工知能と経済の未来』は書き上げるのに一年半も掛かってしまいました。昼間は大学で教鞭をとっており、夜は暇があると飲みに出掛けてしまうので、ちっとも執筆に充てる時間を確保することができないのです。それでも2015年1月から少しづつ書きためていって、2016年の7月にようやくのこと出版にこぎつけました。

それからほどなくして日本経済新聞出版社の編集者の方とお会いし、「今ヘリコプターマネーが話題になっているから、井上さん書かない?」とのオファーを賜りました。ただし一カ月で書いて欲しいというのでためらいがありましたが、「YOUやっちゃいなよ!」といった口調で明るく鼓舞されたので、引き受けることにしました。

与えられた執筆時間は2016年9月の一月間しかなく、その間大学は夏休みであったものの、講演の仕事を幾つも抱えていたので、思うまま執筆を進めることができませんでした。

結局10月に食い込んでしまったのですが、駒澤大学早稲田大学東京女子大学で授業を行い、講演の依頼をこなし、ラジオに出演し、雑誌の記事を書き、学生と焼肉を食べに行ったり、ボーリングをしたりしながら、『ヘリコプターマネー』を書き上げることになりました。

かくしてその時期は私の人生で最も忙しい、しかし実りある日々となりまして、予定より遅れて一月半が経ってしまいましたが、なんとか執筆作業を終えることができました。

最初の本は一年半、次の本は一か月半!一升瓶を抱えて生まれてきたのではないかと揶揄されることのある並々ならぬ飲んだくれの私でも、頑張れば短時間で本を書けることが分かりまして、少し自分に自信が持てるようになりました。

それでも、調べたり推敲したりする時間が十分にとれなかったので、内容や表現に関して納得できない部分が多々あります。『人工知能と経済の未来』はかなり好評でしたが、『ヘリコプターマネー』の方は酷評されても仕方ないと思っておりました。

ところが、『ヘリコプターマネー』の方も、少なくとも積極的な財政・金融政策を支持する人々の間では、好評を博すことができました。そのうえ、この度の経済書ランキングで『人工知能と経済の未来』を上回って一位を獲得することができまして、自分でも驚いております。

2016年に生み出すことができたこれら二つの本の扱っているテーマは、裏表の関係にあります。『ヘリコプターマネー』は、デフレ不況脱却のための切り札とも言われている経済政策を扱っています。『人工知能と経済の未来』の方は、「汎用人工知能」が登場すると目される2030年以降の経済を中心に論じています。

主に前者が現在を、後者が未来を扱っており、両者は一見何の関係もないように見えますが、熟読すると密接に繋がり合っているということがお分かりいただけるはずです。

その繋がりはまた、日本と世界が抱える、あるいは今後抱えることになる経済問題の根幹を成しています。そうしたわけで、一人でも多くの方にこれら二つの本を読んでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いします。

ヘリコプターマネー

ヘリコプターマネー

第3位 高橋洋一『戦後経済史は嘘ばかり』(PHP新書

著者から投票してくださった方々へ
経済書ランキング三位になったとは、とても光 栄です。 筆者はかつてバリバリの理系で歴史と対極的な 学問ばかりを学んできました。 『戦後経済史は嘘ばかり』(PHP新書)は、戦 後経済史に属する本ですが、書き方は まったく歴史本と違います。歴史本というと、 誰かの話が中心ですが、この本では数 字、しかも為替レートが主人公です。しかも、 従来の歴史本では新たな資料発掘がト ピックですが、この本の為替レートは誰でもア クセできるもの。でも、本来自由な為 替市場なら実現していたであろう「想定レー ト」を筆者が計算して算出し、その想定 レートと現実の為替レートの差によって、戦後 日本経済が発展してきた(であろうと の「仮設」)と筆者は考えています。 つまり、戦後日本経済の原動力は円安。技術が どうたらとかのNHKのプロジェクト Xのような話は、円安(たぶん為替操作の結 果)だったからこそ生きたので、そもそ も円安でなければ、いい技術も台無しになると いう、戦後経済神話を打ち砕くような のが、本書の結論。 円安のダーティフロートは、プラザ合意ととも にできなくなって、人為的な円安の終 焉、その後バブルノ後の引き締め継続、その結 果として円高が、失われた20年間とい うのが筆者の「仮設」です。 もっとも、この「仮説」がどの程度説得力を持 つかは、読者の判断に委ねます。 この本は、安倍首相も面白いといってくれ、い ろいろなところで宣伝してくれている ようです。これからも、ちょっと変わった角度 からの歴史本を書きたいと思っていま す。

戦後経済史は嘘ばかり (PHP新書)

戦後経済史は嘘ばかり (PHP新書)

第4位 上念司『財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済』(講談社+α文庫)

著者から投票してくださった方々へ

この本が誕生したのはひとえに浜田先生のおかげです。浜田先生の卒寿を祝う会で、『アメリカは日本経済の復活を知っている』の担当編集だった間渕さんを紹介されて、それがすべての始まりでした。30冊以上単著を書いて、初の10万部越え。本当にうれしいです。支えてくれた皆様ありがとうございました。
この本は赤旗聖教新聞よりいいことが書いてあるので、一人10冊買って、9冊配ってください。そうすることでダライラマに1回面会したのと同じぐらいの功徳が積めると言われております。(嘘です。)

第5位 鈴木亘『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』(東洋経済新報社

著者から投票してくださった方々へ

「経済学者 日本の最貧困地域に挑む」をお読みいただき、推薦してくださった皆様に心より感謝を申し上げます。この本は、一言で言えば、大阪市西成区の「あいりん地区」という、日雇い労働者や生活保護受給者、ホームレスの人々などがたくさんいる貧困地区の「地域再生の物語」です。筆者は、当時の橋下徹大阪市長にリーダー役を託され、地域再生のための改革案をまとめ、縦割り行政を動かし、地域の人々の利害調整や合意形成を行って、ボトムアップのまちづくりを実践してきました。その意味では、数ある地域再生、よくあるまちづくり改革の一例に過ぎません。それにもかかわらず、今回、私の体験を詳しく本として残そうと思った動機は、こうした改革の実行過程、実務、ノウハウが、意外に世の中に知られていないと感じていたからです。特に我々経済学者は、改革案を提案することにはそれなりに長けていますが、それを実行することに関しては、あまり知識を持っていないように思われます。しかし、それではどんなに素晴らしい改革案を作っても、結局は絵に描いた餅になってしまいます。そして、いくら政治家や官僚を批判しても、正しい改革がなかなか進まないことは、これまで数限りなく経験してきたところです。筆者はもう、そんな立場に
いつまでも甘んじていることにほとほと嫌気がさし、とうとう実務の分野に迷い出てしまいました。今は、小池百合子知事のブレーン(というよりも、実際の手足)として東京都の改革に携わっています。改革を実際に実行したい、行動したいという人々の為に、本書が少しでもお役に立てればと祈っております。

経済学者 日本の最貧困地域に挑む

経済学者 日本の最貧困地域に挑む

第6位安達誠司中国経済はどこまで崩壊するのか』(PHP新書

著者から投票してくださった方々へ
投票してくださった読者の皆様には厚く御礼申し上げます。この本では、中国に関する情報を伝えるものではなく、中国経済は日本経済の後を追いかけている」というコンセプトをベースに最近関心がある為替投機のモデルを人民元に応用したものを付け加え、中国経済についての考え方を提示したつもりです。みなさまが中国経済をみる時のたたき台になれば幸いです。

第7位 上念司『経済で読み解く明治維新』(KKベストセラーズ

著者から投票してくださった方々へ
約250ページの本ですが、明治維新が200ページぐらいまで起こらない不思議な構成になってしまい申し訳ありません。いつものことなんでお約束ですw
原田伊織さんの「明治維新という過ち」が流行ってますが、あの本を読んだうえでそのアンサーソングとして書かれた側面もあります。やっぱり徳川幕府のランク主義では西欧列強に対抗するのは無理でした。日本のエリートは集まるとバカになります。それは歴史的に証明されたことなんです。財務省がバカになっている理由も、歴史の宿命だと思って下さい。

第8位 安達誠司『英EU離脱 どう変わる日本と世界』(KADOKAWA

著者から投票してくださった方々へ
多くの方が拙著に投票いただいたことに深く感謝いたします。この本では、私の外資系証券会社時代の経験から、イギリスはEU離脱しても十分に生き残れるのではないかという考えを具現化したものです。「EU離脱でイギリス経済は崩壊する」という当時のコンセンサスには強い違和感があり、一貫して反対の立場をとりましたが、今のところ、イギリス経済はまずまずの状況です。敢えてコンセンサスとは異なる論陣をはってそれが当たるというのがエコノミストという仕事の醍醐味だと思ってますが、そういう意味で個人的にはこの本を出版できたことは2016年の収穫でした。投票ありがとうございました。

第9位 田中秀臣『ご当地アイドルの経済学』(イーストプレス新書)

著者から投票してくださった方々へ
 投票の主宰元という利点をいかしての入賞かもしれませんが、得票者数は多く一位とほとんど同じ人数でした。感謝です。この本は短期決戦的に書きましたが、実際には2015年から16年冒頭までのアイドル市場を観る中で蓄積したものでした。NGT48の北原里英さん、WHY@DOLLさん、まなみのりささん、はちきんガールズさんには取材で協力していただき、特に北原さんには冒頭のインタビューに加えて、帯にまで登場していただきました。みなさんに感謝です。アイドルを文化経済学的な観点から読み解くという観点は、『AKB48の経済学』でも採用したものですが、今回はそれがさらに進展していると信じています。結果として新書にしては非常に濃密な一冊になりました。投票していただいた方々に謝意を表します。

第10位 稲葉振一郎『不平等との闘い』(文春新書)

著者から投票してくださった方々へ
企画の開始時点で「遅れてきたピケティ便乗 本」と自嘲しましたが、可能な限り急いだに もかかわらず、諸般の事情で刊行は遅れに遅 れました。ただ、内容自体はさほど時事的な ものではなく、案外長い歴史的射程を持つも のになったと思います。 不平等・格差という視点に絞り込んだ、経 済学史の副読本としてお使いいただくことを 狙っていましたが、労働問題研究者の金子良 事さんには「経済学における制度学派的な意 味での社会政策の新しい入門教科書」と過分 の評価をいただきました。自分としては労働 問題への論及は抑え気味にしたつもりだった だけに、意外でした。

11位 タイラー・コーエン『エコノミストの昼ごはん』

エコノミストの昼ごはん――コーエン教授のグルメ経済学

エコノミストの昼ごはん――コーエン教授のグルメ経済学

12位 松尾匡『この経済政策が民主主義を救う』

この経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案

この経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案

12位 アンソニー・B・アトキンソン『21世紀の不平等』

21世紀の不平等

21世紀の不平等

12位 浜田宏一ポール・クルーグマン『2020年 世界経済の勝者と敗者』

2020年 世界経済の勝者と敗者

2020年 世界経済の勝者と敗者

15位 浅田統一郎『マクロ経済学講義 第三版』

マクロ経済学基礎講義 <第3版>

マクロ経済学基礎講義 <第3版>

16位 高橋洋一『「マイナス金利」の真相』

「マイナス金利」の真相

「マイナス金利」の真相

16位 飯田泰之他『地域再生の失敗学』
地域再生の失敗学 (光文社新書)

地域再生の失敗学 (光文社新書)

16位 アルビン・E・ロス『フー・ゲッツ・ホワット』

18位 リチャード・セイラー行動経済学の逆襲』

行動経済学の逆襲

行動経済学の逆襲

19位 ベン・バーナンキ『危機と決断』

危機と決断 (上) 前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録

危機と決断 (上) 前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録

19位 ジョセフ・スティグリッツ『ユーロ』

2017年もよろしくお願いいたします! めざせ、デフレ完全脱却! 日本経済に明るい未来を!