高橋洋一『図解 地政学入門』

 高橋洋一さんは財務官僚時代、米国に留学しそこで国際政治とリフレ政策を学んで日本に帰国した。特に前者の学習が留学の主目的だったので、本書の地政学的テーマはむしろ高橋さんの「本業」に近いことになる。『バカな外交論』でも日本の外交、安全保障政策、各国の政治経済について簡潔でわかりやすい解説を展開したが、本書はさらに地理的要因、歴史的背景などの流れの中で各国の政治状況、対抗する権力構造を明らかにしていて、これから世界の政治を見るうえでわかりやすい絵図を与えてくれるだろう。

 高橋さんの地政学的アプローチの基本は「民主的平和論」だ。それは民主主義国家同士は、「個人の価値」を優先するので、戦争を起こす可能性が低いことを意味する政治理論の体系である。本書でもこの観点を踏まえながらも、各国の権力の抗争の可能性を冷静に分析している。また民主的平和論をベースにした実証的か観点から、日本の集団的自衛権の正しさを論証している。残念ながら日本ではイデオロギー対立のみ深刻であり、高橋さんの実証的な議論は無視され続けている。日本は民主主義国家ではあるが、同時に安全保障を実証的に議論することを避けている国でもある。本書は地政学的な議論の入門書であるが、また平和とは何かを理論と実証で考える最初の一歩になるだろう。