高橋洋一『数字・データ・統計的に正しい日本の針路』

 高橋さんがネット記事「現代ビジネス」に寄稿した論説の中から注目を浴びたものを選び出し、そこに加筆した著作である。端的にいうと、現代の重要な経済・社会問題を考えるうえで欠かせないツールや分析的な視点が網羅されていて、その主張にどう対するのであれ、本書は客観的なデータと論理とで議論すべきだ、と読者に要求している。これだけの質・量ともにすぐれた論説を日々生産できる高橋さんには敬意をまず抱いてしまう。

 個別のテーマでも面白いネタが揃っている。人口減少と経済停滞の相関関係が乏しいこと、金融政策が雇用や経済成長にとって必要条件になること、ピケティの『21世紀の資本』の経済格差対策としての成長政策の重要性、消費増税への批判、いたずらな経済格差の誇張への警戒、左派・リベラルの論者たちの経済無策への批判など経済問題をとっただけでも興味深く、通常のテレビや新聞の「常識」とは違う正論が語られている。

 繰り返すが、これを論破するには、少なくとも本書と同じようにデータと論理できちんと対峙すべきだ。たとえば「アベノミクスの方が民主党政権よりも経済成果をあげている」と書くと、ネットなどではバカの一つ覚えのように、ろくにデータも論理も調べずに、1)民主党政権の時から失業率は低下している(だから民主党の政策がよかった)、2)民主党政権のときから自殺者数は減少していた(だから民主党政権の成果である)、3)実質賃金がそもそも低下している、という「反論」がくる。

 たとえば、本書では2)については、「民主党時代の2010年から三年間における平均の自殺者数は2万8300人/年、自殺率は10万人当たり22.4人だったが、安倍政権の2013年から二年間におけるそれらは2万5200人/年、20.1人と大きく改善している。これらの自殺者数の減少は、金融緩和によるものであり、事前に予想されたとおりの効果である」とされている。金融緩和の成果=失業率の低下と自殺者数の推移も本書にある。その他の「反論」については私の2月27日のtwitterでもググってほしい

 さて本書はまた集団自衛権を含む安全保障問題についても高橋さんの具体的な提言が網羅されていて参考になる。また日本の財政赤字を過度に強調して緊縮政策=消費増税にはしる勢力にたいして、日本の財政赤字問題がそれほど深刻ではないことも本書を読めばわかる。そしてその解消もやはりアベノミクスの金融緩和を中心にした諸政策の成功を確実にすることによってもたらされることがわかるだろう。

 ちなみに高橋さんはあたかも安倍政権のエピゴーネンのようにとらえる賢明ではない無知な人たちがいるが、高橋さんはいい意味での政策屋である。イデオロギーにさほどとらわれず、いろんな政権に政策を提案してきたしこれからもするだろう。たまたまいまの安倍政権の経済政策の方向が、本書にあるようにデータと論理から支持できるにすぎない。そこがどうも日本のネットでも言論界でも理解が浅い。この種の「不幸」な状況が本書によって少しでも改善することを期待したい。

 政策を語るものは手元に置くべき一冊である。