ポール・クルーグマン&浜田宏一『2020年世界経済の勝者と敗者』

 クルーグマン氏と浜田先生とが米国、日本、ヨーロッパ、そして中国の経済を話題に意見交換した記録。いろいろ未解決問題も提示してあったり、また両者の見解の違いもわかり面白い。本書は学生や研究者、政策に興味を持つ人たちが自分で見解を深めていくきっかけを様々なネタとして提供していると思う。

 以下は箇条書きに各章で僕が個人的にメモしたところ。本書の概要をメモしているわけではないので詳しくは同書を読まれるように。

第1章はアメリカ経済について。

クルーグマン最低賃金引き上げによるモラル向上、離職率低下、生産性の上昇の確認。技能向上&勤労所得控除の組み合わせの従来の労働対策の限界の指摘。労働組合の組織率を上げることも重要。TPPは「どっちつかずの反対派」。格差拡大の動的メカニズムはピケティの議論に賛同するもの、多くは解き明かされていない。石油価格とシェールオイル(ガス)との関係についてはクルーグマンは思考中。緊縮財政への批判と積極的財政政策のすすめ。

浜田:全体にこの章では米国の経済学者や政策担当者との回顧的側面が強い。TPPについてはそのルール構築の面を積極評価。コラムでは、デール・W・ジョルゲンソンとの対話(現在の日本の為替レートが適正との評価、当時だからドル円が1ドル120円前後)の記録が興味深い。

第2章は日本経済、特にアベノミクスの在り方について。

浜田:デフレが日本の経済停滞の根源。デフレは日本銀行の政策の失敗による。インフレ目標による低インフレ政策が重要。日本国債の安全性&安定性。黒田総裁は金融政策の理解は正しいが、消費増税については財務省主税局のDNAがみられる。この点を指摘した文章を日本経済新聞に掲載するときに「字余り」ということで削られたが、浜田先生はこれを記者の財務省の「教育」の成果であると批判的にみなしています。クルーグマン氏の積極的財政政策に一定の理解は示すものの、いまの日本の状況であれば金融政策(ただし消費増税はとんでもない)主体でデフレ脱却は可能という立場。財政政策の長期的な非効率性の問題視。

クルーグマン:金融政策の評価は浜田先生と同じ。女子労働力、外国人のゲスト・ワーカー型プログラムの提唱、定年など高齢者雇用の在り方の見直しの提言。日本の対外リスクとしての中国。消費増税への徹底的な批判。インフレ目標4%の提示

余談だが、コラムの浜田先生の「傘寿の会」にはおよばれしました。楽しかったです。浜田先生のコラムは日本社会やメディアの閉鎖性やゆがみをするどくえぐっていてこれだけでも本書を読む価値があります。

第三章と第四章はヨーロッパと中国について。クルーグマン氏がデンマークと米国を比較したり、また浜田先生が中国の政治的はゆがみを鋭く指摘したり、マイナス成長の可能性を示唆するところは興味深い。

全体的にこれからの政策を考えるためのヒント満載で、いろいろネタを頂戴したなあ、と思う。

2020年 世界経済の勝者と敗者

2020年 世界経済の勝者と敗者