お正月特別企画:2015年心に残る経済書ベスト20発表!!(ベスト10日本人著者全コメント公開)

 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 2012年、2013年と実施し大好評を博した「心に残る経済書ベスト」が二年ぶりに戻ってきました。応募者総数約100名 有効投票ポイント991の方々に参加いただき、今年は上位陣が白熱した接戦を展開しました。

 対象期間は2014年11月から2015年10月末までに出版された国内外の経済書となります。ちなみに、2012年第一位は、ポール・クルーグマン『さっさと不況を終わらせろ』(早川書房)、2013年第一位は、田中秀臣編著『日本経済は復活するか』(藤原書店)でした。2014年は実施していません。

 さていきなりですが、2015年の第一位は!

第一位 原田泰 『ベーシックインカム』(中公新書
第四位 原田泰『反資本主義の亡霊』(日経プレミアム新書)
著者から投票してくださった方々へ


 私の『ベーシックインカム』が「2015年心に残る経済書」の第1位、『反資本主義の亡霊』が第4位に選出されたとのこと、大変光栄です。特に、『ベーシックインカム』が非常に高い得票を得たとのこと、大変ありがとうございます。日本銀行に参りますと、おかしなことにはなんであれ、すぐさま異議を申し立てるという訳にはいかなくなり、少し寂しい思いをしています。しかし、金融政策について十分な検討の上で書くことは構わないので、これから書いていこうと思っています。皆様に選ばれた2冊の本のテーマは、金融政策とは違いますが、金融政策を補完するものです。私たちは、「金融緩和さえすればすべてのことが解決できるという謬説をまき散らすリフレーショニスト」などと言われていますが、田中秀臣先生も私も、そんなことを言ったことはありません。
現在行っている金融緩和が、働く機会を増やし、労働条件を引き上げていることは確かですが(その引き上げ方が十分ではないという批判は受け止めます)、何らかの理由で働けない人には、その恩恵は行き渡りません。すべての人には、基礎的所得を与えようというベーシックインカムは、金融政策のできないことをして、人間の生きる権利と自由を保障するものです。また、金融緩和が社会全体の所得を増やしていることから、ベーシックインカムの水準を引き上げることも可能になります。
『反資本主義の亡霊』は、資本主義こそが人類の生活水準を高め、社会保障ベーシックインカム環境保護、男女平等、多様な文化の発展を可能にするのに、なぜ資本主義に反対するのかという、私のかねてからの疑問について書いたものです。私としては十分な反論を行ったつもりですが、資本主義に反対する人が多いのは変わらないようです。
私の意見は、日本全体では少数派のようですが、田中先生のブログの読者の方々の間では多数派と認められました。皆様のご協力を得て、日本全体の中での多数派となるように努力していきたいと思います。
本当にありがとうございました。

第2位 野口旭『世界は危機を克服する』(東洋経済新報社
著者から投票してくださった方々へ

<写真:右が著者。左は三井智映子さん>
拙著を手にとっていただけたことに、こころより感謝いたします。「はしがき」に書いたとおり、本書の執筆には約1年半を要し、その紙幅も自分でもうんざりするくらいのものになってしまいました。そのような本にもかかわらず、多くの方のご支持を頂けたことは、望外の喜びという以外にはありません。私はこの約15年間、いわゆるリフレ派と呼ばれる立場から、マクロ経済政策に関する言論活動を行ってきました。その中で痛感してきたのは、リフレ政策を批判する人たちは数限りなくいるけれども、その中でリフレ政策とは何かを正しく理解している人はほとんどいないという事実です。私が、こまぎれの論評ではなく、ある程度のまとまった本を一度は書かなければならないと考えたのはそのためです。もちろん、これがリフレ派そのものだというつもりはありません。しかし、少なくとも一つの叩き台は提供できたのではないかと考えております。

世界は危機を克服する: ケインズ主義2.0

世界は危機を克服する: ケインズ主義2.0

第3位 若田部昌澄『ネオアベノミクスの論点』(PHP新書

著者から投票してくださった方々へ

私の本『ネオアベノミクスの論点』を評価していただき、誠に有難うございます。この本は、結構短期間で作りましたが、この時点で私がアベノミクスについて書きたいと思っていたことはすべて書いたという思いがあります。その後、本家のほうはネオならぬ第二ステージが登場しましたが、そこで出てきた2020年までに名目GDP600兆円を目指すというのは、名目GDP水準目標といえなくもないし(首相にはぜひ明言してほしい)、「国民所得倍増計画」の再来といえなくもありません(倍増ではないのが残念ですが、首相にはこちらもぜひ明言してほしい)。このどちらについても本書には記述があります。もっとも名目GDP600兆円達成に必要なのは消費税増税の凍結でしょうか。

ネオアベノミクスの論点 (PHP新書)

ネオアベノミクスの論点 (PHP新書)

第四位 高橋洋一『図解 ピケティ入門』(あさ出版
著者から投票してくださった方々へ

心に残る経済書という評価をいただきありがとうございます。
ピケティ本は、図表が多く、図表マニアの筆者にとって、とても楽しい本でした。翻訳がでるというので、ブームに便乗した解説本です。原書の10分の1の図表を選んで原書の雰囲気を伝えただけですが、先行していた解説本があまりにデタラメだった(原書を読んでいなかったり、くだらない自説の解説だったり)ために、筆者の本が消去法的に読まれたのでしょう。
反リフレの人が、ピケティ本を我田引水に利用しようとしたのですが、ピケティはオーソドックスな経済学を使っていたので、かえってリフレの補強になったのは傑作でした。

第6位 田中秀臣(編著)・飯田泰之麻木久仁子『「30万人都市」が日本を救う!』(藤原書店)
著者から投票してくださった方々へ



投票頂いたネットの勇者の皆様に感謝します。たぶん会場でこれを読んでいる男が編者です。いまや日本の経済学者の中で一番ブラウン管(昭和生まれゆえ許せ)に出てる人飯田泰之さんと、80年代にブラウン管(同文)でその美貌と知性を拝見してからぜひ一度はお会いしたいと思っていた麻木久仁子さんと三人で意見は違えど一年もかかって出した共著だけに思い出も多くあります。特に麻木さんとは『日本建替論』で2012年にランクインして以来二度目でした。麻木さんの一般読者の視線を大切にし、そして時には辛辣な批評をずばずばいう、そのバランスが素晴らしいと思いました。麻木さんとの三作目はアベノミクス終焉後にやれたらいいなと夢想しております。ともあれ三人の個性の違いを楽しんでいただければ幸いです。ありがとうございました!

第7位 浜田宏一安達誠司『世界が日本経済をうらやむ日』(幻冬社
著者から投票してくださった方々へ


投票いただいた皆様、どうもありがとうございました。内容としては特に目新しいところはありませんが、営業力の強い出版社の猛プッシュ(特にワンマン社長の強いプッシュ)もあり、これまでリフレに触れてなかった人たち(特に高齢者層)に売れたということで啓蒙の意味はあったかもしれません。来年で浜田先生は80歳になられますが、学究的姿勢には全くお変わりがなく、リフレの重要性について、反対勢力の学者さんの説得に行脚されておられるようですので、皆さんもリフレを嫌いにならないでくださいまし。

第7位 松尾匡ケインズの逆襲 ハイエクの慧眼』(PHP新書
著者から投票してくださった方々へ

<右が著者、中央は三井智映子さん、左は田中秀臣
投票してくださったみなさん、ありがとうございます!! これからも心に残る経済書を書くためにがんばりますので、応援よろしくお願いします♥

第9位 トマ・ピケティ『21世紀の資本』(山形浩生・守岡桜・森本正史訳、みずず書房)訳者から投票してくださった方々へ

ぬわんですと、たった9位とは! 
が、仕方ない。忙しい人々がきっちり読むにはなかなかハードルの高い本ではありますから。ぼくにとって、今年はピケティ『21世紀の資本』で始まり、アトキンソン『21世紀の不平等』で終わった一年と言えるかも知れません。
 読んでいただいて、本当に感銘を受けた人がどれだけいるのかは、個人的にはちょっと首を傾げている面もあります。なぜベストセラーになったのかは、インタビューなどではあれこれ聞いた風なことを言ってますが、実はどの主張も確信はなく、たまたま何か時代のツボにはまったとしか言い様がない。とはいえ、本書をきっかけに格差という問題に関心が集まったのはすばらしいことではあります。そして今年出てきた各種の新しい話題も、決して格差と無関係ではありません。
人工知能が人間をしのぐかも、という話題が年の半ばから盛り上がってきたし、移民の問題、テロの問題なども次々に出てきて、どれもある意味で格差の問題ともつながっています。アトキンソン『21世紀の不平等』は、それを指摘している点も重視すべきでしょう。人工知能の発達で、人間が失業しかねないという。だったら、そうならないような技術発展の方向性を考えようじゃないか。それに伴い、労働も柔軟になり、非正規が増えてきた。だったらそれにあわせて福祉制度を見直すべきだ。移民・難民が大きな問題となりつつある。だったら、かれらを含めた社会保障の在り方を考える必要がある。
ピケティは、大胆に格差を一つの数式に還元して見せ、そこから一つの大きな解決策を提示してみせました。それに対し、もっと多様なアプローチを示唆したアトキンソンの主張と、どちらにみなさんが魅力を感じるか——それが今後の格差問題への社会的なアプローチをも左右するのかもしれません。そんなことを考えつつ、読みかけて挫折した人も、今一度ピケティに挑戦していただくのも一興かとは存じます。ご支援、ありがとうございました!

21世紀の資本

21世紀の資本

第10位 マーク・ブライス『緊縮策という病 「危険な思想」の歴史』(若田部昌澄監訳、田村勝省訳 NTT出版

緊縮策という病:「危険な思想」の歴史

緊縮策という病:「危険な思想」の歴史

第11位 清水真人『財務省と政治』(中公新書

第12位 片岡剛士『日本経済はなぜ浮上しないのか』(幻冬社

著者から投票してくださった方々へ

居並ぶ書籍の中で、拙著を三度評価頂きましてありがとうございました。
2015年は本を出せなかったのですが、2014年に出した本に投票頂いて恐縮です。2016年には、読書家の方をうならせるような面白い本を世に問えればと思いますので、どうぞご期待ください!

第13位 上念司『地方は消滅しない!』(宝島社)

著者から投票してくださった方々へ

「金持ちはお金を出して資産を買う。貧乏人はお金を出して負債を買う。」これは預言者ローバト・キヨサキが人類に伝えた神の言葉です。神の教えに逆らえば貧しくなる。そんな当たり前のことがわからない人が多すぎる。世の中には悪魔に憑りつかれた自治体が多く、大抵は金を
出して負債を買いまくっております。このままでは、日本が「オーメン」になってしまう!そんな危機感から本書は生まれました。
悪魔よ、去れ!!

地方は消滅しない!

地方は消滅しない!

第14位 軽部謙介『検証 バブル失政 エリートたちはなぜ誤ったのか』(岩波書店第15位 上念司『経済で読み解く大東亜戦争』(宝島社)

著者から投票してくださった方々へ

学校の歴史教育では「戦前、ある日突然軍部という恐ろしい人が現れて、日本を北朝鮮のような国にしてしまいました。そのおかげで国民はインフレに苦しんで悲惨な目に会いました。戦争が終わってアメリカが解放軍としてやってきて、日本は平和になりました。」というファンタジーを教えています。頭のいい子はこんなバカ話を信じません。歴史を「経済(特に、金本位制)」でリンクさせてみると、学校教育で放置されたミッシングリンクがつながるということを発見した時、これをみんなに伝えねば!という使命感が沸々と湧き上がってきました。その使命感が結実した一冊です。聖教新聞よりいいことが書いてあるので三冊買って、二冊配ってください。

経済で読み解く大東亜戦争

経済で読み解く大東亜戦争

第16位 デヴィッド・スタックラー&サンジェイ・バス『経済政策で人は死ぬか?』(橘明美・臼井美子訳、草思社

期間対象外だが投票者多数につき点数を半分にしてランクイン。そのまま点数化すれば今年でもベスト10入り。

経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策

経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策

第17位 岩井克人『経済学の宇宙』(日本経済新聞社

経済学の宇宙

経済学の宇宙

第18位 中牧室子『「学力」の経済学』(ディスカヴァー)
「学力」の経済学

「学力」の経済学

第18位 ジョセフ・スティグリッツ『世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠』(徳間書店
世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠

世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠

第20位 上念司『経済用語 悪魔の辞典』(イーストプレス

著者から投票してくださった方々へ

まえがきにも書いた通り、本書はアンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』を完全にパクっております。本来、この賞はパクった私ではなく、オリジナル版を書かれたビアス師匠のものです。今度、訪米した時、ビアス師匠の墓前にこの賞をささげたいと思います。
あまりにも個人的な希望で生まれた本だけに、こんなに
売れるとは思いませんでした。日本にもやっと「皮肉」を
理解できる成熟した大人が増えてきたということかもし
れません。まだ読んでない人はぜひお読みください。
一家に一冊『悪魔の辞典』!

今年もよろしくお願いいたします! めざせ、デフレ脱却! 日本経済に明るい未来を!