“左派のサッチャー”と生活賃金(Living Wage)、リフレ政策との関連

 松尾匡さんの学会でのコメント関連。僕のtwitterのタイムラインでも一時期非常に話題になったイギリス、スコットランドの左派政党(SNAP スコットランド国民党)の党首スタージョンの「リフレ」政策への注目。
 SNAPの経済政策については以下に整理されている
http://www.snp.org/economy 
 女性の雇用増加、減税、失業率の達成、持続的な経済成長などが主目的。特にその内実をみると生活賃金(Living Wage)の実現が核になっている。

 生活賃金は、法的な規制のある最低賃金や、ベーシックインカムとも異なる概念であるようだ。英語版のwikipediaはかなり詳細に解説している(日本版はない)。
https://en.wikipedia.org/wiki/Living_wage

定義としては以下のものがわかりやすい。
A living wage is defined as the wage that can meet the basic needs to maintain a safe, decent standard of living within the community.
Gertner, Jon (January 15, 2006). "What Is a Living Wage?". The New York Times. Retrieved March 19, 2012
http://www.nytimes.com/2006/01/15/magazine/15wage.html?pagewanted=all

以下の資料も生活賃金の理解に役立つ
http://www.jlgc.org.uk/jp/wp-content/uploads/2014/07/uk_may_2014_01.pdf

日本語の解説やイギリスでの生活賃金の話題を紹介したのは記事としてはまず以下。
ただしこの記事は吉川洋氏の『デフレーション』という僕からみると誤ったリフレ批判が展開されている本をもとにしていること、生活賃金の理論的支柱を誤解していること(実質賃金上昇に傾斜して焦点をあてている、吉川氏らの主張の影響だろうか?)などを割り引いて読む必要がある。生活賃金の理論的背景としては、別エントリーで紹介したが、ケインズ主義(置塩信雄のケインズ解釈とそれの松尾匡さんの応用、または宇沢弘文)的発想が欧州左派やイギリスでの議論のベースとして理解しやすい。吉川氏らは中央銀行の金融緩和政策(量的緩和など)を批判しているが、欧州左派の「生活賃金」主張はむしろ量的緩和などの金融緩和政策と親和的である(理論的にも実際にも金融政策による実質貨幣供給の増加を前提にしている)。そこを注意しないといけない。

注意書きが長くなったが、その点に留意されて以下を読まれたい。

安倍首相も生活賃金の導入を 英国は5年後に時給1665円 デフレ脱出の切り札に(木村正人)
http://blogos.com/article/121473/

少し古くなるが(2012年12月)、イギリスでの生活賃金導入の動きを解説したもの
「生活賃金」3%以上の引き上げ率―労働者全体の平均賃上げ率を上回る
http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2012_12/england_01.html

また松尾さん自身の論説は別エントリーでも紹介しているのでそれを参照のこと。
http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20151107#p1