桜林美佐『自衛隊の経済学』

 防衛装備庁のロゴマークが「物議」をもたらす程度の日本のごく一部の関心をみるにつけ、本当に日本の安全保障政策の理解が重要だな、と安全法制問題との関連も含めて日々確信している。その中で出版された桜林美佐さんの『自衛隊の経済学』はまさに求められていた一書といえる。

 冒頭では上念司さんとの対談が収録されていて、日本のおかれた安全保障の状況が、日米同盟の経済的・安全保障的意義、自衛隊の人件費抑制の目もあてられない状況(引っ越し費用さえも自弁など)、日本の防衛に関する基礎研究の脆弱性、ラセット&オニールの「カントの三角形」(国際的な組織、民主主義、経済的相互依存関係)などの視点から議論されていて本書のいい導入になっている。

 第一章は日本の防衛に関する実態をデータをもとに解説していて、非核三原則という縛りを米国の核の傘で補っている実状、もし単独で自国防衛するときの膨大な経費見積もり可能性、武器輸出三原則緩和の実態、米国の安全保障政策のシフト、ロシア、中国、北朝鮮などアジアの緊張関係などが整理されている。

 第二章ではポール・ポーストの『戦争の経済学』を利用して、自衛隊の経済学、各国の防衛費動向の経済的分析、政府と防衛産業の「相互独占」の経済的意味の解明と日本の現状における問題点が整理されていて、非常にわかりやすい。

 第三章は桜林さんの地道な防衛産業のフィールドワークがいかされた、日本の防衛産業についてのよくある間違った見方への反論、そして事実はどうなっているのかを多数の実例で丁寧かつ実証的に論じている。第四章の桜林さん自身の日本の求められる防衛政策の提起と並んで、本書の核心部分といってよく読むものをぐいぐいひきつける。そして読者はこの本をもとに、日本の自衛隊の在り方、安全保障の在り方を本当のリアリストとして、きれいごとを抜きにしてみることができるだろう。

 桜林さんの堅実な仕事ぶりもわかる実にいい本だ。ぜひ今後の議論のために手元において参照してほしい。