古谷経衡『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』

 古谷さんから頂戴しました。ありがとうございます。ネット右翼の最新の分析結果とその総括、さらに社会的排除社会保障問題などについてコミットする「ソーシャル保守」への展望を書いています。読みやすい良書です。

 古谷さんは、副題にありますヘイトスピーチと今日の「ネット右翼」の構造との関連も鋭利に分析しています。。
 日本の戦後の保守の主流的意見(保守王権ともよぶ)がネットやニュースなどで「見出し」(ヘッドライン)だけみて、それだけで妄想たくましくさまざまな負の感情を爆発させる集合的行動を「ヘッドライン寄生」とよんでいます。

 このヘッドライン寄生を多く行う心理的集団を、古谷さんは「狭義のネット右翼」とよび、それは21世紀になって特に民主党政権時代に力を得たと指摘する。その上で、ヘイトスピーチとの関連を以下のようにおさえている。

「「ヘイトスピーチ」とは、「保守王権」と「狭義のネット右翼」が癒着した果てに登場した、最悪の言説の集合体である。そこにあるのは無知と非科学とトンデモである。こうした魔物の正体と見極め、痛打を加えることこそ、いま最も「保守」に求められるリテラシーではないか」244頁。

 古谷さんのこれら「保守王権」(従来の憲法、国防、歴史観といったマクロ的な天下国家観が中心)や「狭義のネット右翼」といったあり方ではない、「ソーシャル保守」の必要性を主張しています。

「高度国家論、すなわち本書でとり上げた「憲法」「国防」「歴史観」といった、マクロ的な天下国家を説くばかりではなく、貧困や福祉、若者の就労問題やブラック企業問題、子育てや育児、教育など、社会的な分野、つまりソーシャルな分野での主張を、愛国心を基に展開する。旧来の「保守王権」とは異なる、「ソーシャル保守」の誕生が必要である」250頁

としています。おそらく「愛国心を基に展開する」という部分が今後さらに検討すべき点ではないかと思います。いわゆる「愛国心」とは何か、そして「愛国心」と保守の関係はなんなのか、それを歴史的かつ現在時点での省察としてみることが、この「ソーシャル保守」には必要な検討作業ではないかと愚考します。