飯田泰之『日本がわかる経済学』

 ビジネスで活用できるマクロ経済学(日本全体をとらえる経済の見方)の入門書としてとても読みやすい。ラジオでの話をベースにしているので語り口が滑らかに構成されているのも長所。前作のミクロ編『思考をみがく経済学』よりも個人的にはこちらの方が面白かった。

 また実際の経済を大枠で理解するいくつかのヒントがちりばめられているので、この本をベースにしてなるべく道を踏み外さすに(素人の人が陥りやすいのは基本を逸脱して自説で断定してしまうところだ)、さらにレベルの高い本に向かうのがいいと思う。

 以下は本書でよかったと思う点をいくつか列挙。

1 景気の動向を知るためのいくつかの経済指標とその先行・一致・遅行の性格についての説明を丁寧にしていること。政府やメディアの発表するデータの特性に注意して、脊髄反射せずにそのデータを冷静にみることができる。

2 経済と「幸福度」との関連を重視していること。特に経済成長との関連、資産・所得との関連、またSNSの利用度と幸福との関連に目配りをしていて面白い。マスコミで頻繁に紹介されている幸福度の高い国といわれているブータンが、アンケートの適切な作問をしただけで、実は日本よりも幸福度が低かったこと、その背景での一人当たりの生活水準の低度があることを指摘していること。

3 経済成長を三段階(古典派→新古典派→現代)の視点で整理している第三章はとてもいい。また経済評論家たちでも陥りやすい潜在GDPの無理解(=成長政策こそ経済政策の主役、いまなら成長戦略をやたら大目玉のように喧伝するマスコミや市場関係者を含む)の指摘。

4 雇用面の充実した記述が特に目をひいた。昔の飯田さんの視点よりもバランスがいい(笑)。長期雇用の望ましさ、さらに日本の年金制度との比較(類似性の指摘)をもとにした、社員の年齢構成のフラット化のすすめ、はとてもいい指摘。簡単にいえば、企業は社員の年齢構成を寸胴型にすることが望ましい。例えば30代後半やまたは失われた世代、リーマンショック世代など企業が現時点で「スリム」になっている年齢構成層の雇用を増やすことが必要。

5 人口減少=長期停滞説への反論。1)経済の絶対的な規模ではなく幸福度は一人当たりの経済の大きさに大きく依存する、2)人口減少による労働供給力の減少は、高齢者・女性の労働参加率の向上で十分に補える。女性の労働参加率は50%台。これを7〜8割にもっていく。年1.5%程度の供給力の低下は十分に緩和できる、3)アイディアが五月雨式にうまれる社会。飯田さんは使ってないが文化的・経済的クラスターの形成(必然的に都市・地方都市の集約的発展が必要)が要請される&金融政策を中心としたマクロ経済政策での経済安定化(そのためのインフレ目標のようなコミットメントの枠組みの設定)が望まれる。

NHKラジオビジネス塾 日本がわかる経済学

NHKラジオビジネス塾 日本がわかる経済学