ウリ・ニーズィー&ジョン・A・リスト『その問題、経済学で解決できます』

 今年読んだ経済書の中でも最も面白いもののひとつ。

  ニーズィーとリストはランダム化実地実験という手法で、保育園の送り迎え、女性差別、子供の成績を上げる方法、寄付金が増える方法などにそれを応用して目覚ましい成果をあげている。

 経済学は一般にインセンティブ(動機づけ)に関する学問だ。インセンティブには、金銭に関わるもの、社会的なもの、宗教的なものなどいくつかのものがある。特に重要視されているのが、金銭的インセンティブだが、かれらは重要なのはこの金銭的インセンティヴをうまく活用する仕組みに注意すべきだとしていることだ。それをランダム化実地実験で実証している。

 例えば資産家の寄付をもとに彼らは金銭的報酬の多寡によって子供たちの学習がどれだけ影響をうけるかを実際の教育現場で試している。金銭的インセンティブを活用する仕組みがうまく働かないと、他の重要なインセンティブが衰退してしまい、むしろ人間関係や組織、社会の運営がうまくいかなくなることがでてくる。例えば、保育園での子供の引き取り時間が決まっているとしよう。この引き取り時間に間に合わない保護者の人が多いので、困った保育園は引き取り時間をすぎた家庭には罰金を課すことにした。ところが罰金制にすると、門限をやぶる家庭が続出。人手が足らなくなったので、元の罰金をとらない方式(つまり言葉で文句をいう方式)に戻した。ところが、以前よりもとても多くの人が門限破りをするようになってしまった、という。これは金銭的インセンティブをコントロールするつもりが、社会的なインセンティブで門限を破るまいと頑張っていた親たちのかなりをダメにしてしまったケースといえる。


 ところでニーズィーとリストは、寄付金を多くあつめる方法として注目したのは、同調圧力などの自分本位の動機をうまく活用することだった。例えば、一回でも寄付したことのある人にダイレクトメールを送る。そこに一文が書いてあって、今回の勧誘で寄付されない方には二度とこのメールは送られません と書いてある。するとこのメールの文面が「他人の視線」のように感じられて、寄付金がむしろ増加する。あるいは、口唇裂に悩む発展途上国の女の子の写真が動画やフォトでネットに掲載され、それに多くの人が「魅かれて」(つまりは少女の可愛げな容姿とその口唇裂のアンバランスさに対して)、それゆえに寄付をしようとした。つまりは寄付そのものの効果よりも、自分が他人にどうみられているのか、あるいは自分の手前勝手な嗜好が、寄付という行為に大きく関わっていることを、彼らは実証したのである。

その問題、経済学で解決できます。

その問題、経済学で解決できます。

その問題、経済学で解決できます。

その問題、経済学で解決できます。