中森明夫『午前32時の能年玲奈』

 アイドル評論は、後付けの知識や判断ではない。未来に希望を賭けて書き進むことだ。これが本書の強烈なメッセージだ。本書のタイトルこそ、中森さんのアイドル評論(そしてその双子ともいえる文学評論)が賭けているものをすべて体現している。時代とともに生き、書き、そしてその場の出会いに感銘し震える。その躍動感が、このタイトルにすべてこめられていると僕は思う。「午前32時」、僕らは確かにその時間を生きた、そして今やそれを超えよう。ただ超えるのではない。能年玲奈というひとりの稀有な少女を同伴者に、彼女のこれからの希望もひょっとしたら失敗もすべて抱えてだ。

 本書のタイトルだけで僕はもう中森さんの前に降伏(幸福)である。しかも「午前32時の能年玲奈 完結編」の冒頭に僕の名前をみたときは、本当に脳が震えた。それは中森さんと同じ時代を生きている震えだ!

 本書の収録された諸編は、実に面白いし、鋭い。鋭い分析は、それを土台にさらに自分でも勉強してみたい動機を誘発する。例えば、論壇アイドル論ともいうべき、「宮台真司の“転向”」「東浩紀というキャラクター」「石原愼太郎という墓碑銘」などは、ものすごい密度と経験によって書かれたものだ。また桜井亜美の『ガール』の解説の摩訶不思議さ。中森さんの日常がひとつの幻想宇宙のように展開する。

 中森明夫さんが同じ時代に生きてよかった。中森さんがいなければオタクも、美少女も、アイドルも、そして愼太郎や能年玲奈だってきっと違う人生とその解釈(中森さんがいないだけ色あせた)を送ってしまっただろうから。

 希望は能年玲奈! 希望のありかは中森明夫が指さす!

午前32時の能年玲奈

午前32時の能年玲奈