黒田東彦総裁・岩田規久男副総裁・中曽宏副総裁就任記者会見

就任記者会見で最も注目すべきなのは、やはり総裁である。政策での重心からいっても、ボードメンバーの代表としても、総裁の発言がきわめて重いので、ここではあえて黒田総裁の発言を中心に紹介する。

日本銀行HPより 

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2013/kk1303e.pdf

黒田総裁の発言要旨
1 デフレ脱却し、2%の物価安定目標を実現するのが最大の仕事→物価安定に日銀が具体的な数字で責任をもつということ。

 デフレの原因はいろいろあってもデフレ脱却の責務は日本銀行にあり(=岩田副総裁と同じ認識の強調)
引用:「デフレの原因を、色々な要素を測って研究すること自体は意味があると思いますが、中央銀行としては、「色々な原因でデフレになっています」と言っても――先程、岩田副総裁も言われたように――、責任を阻却することはできないと思います。」

2 1を「2年程度でできれば好ましい」。

3 手段は質的&量的な面での緩和で
 引用:「量的な緩和が不可欠であることは事実ですが、単に、マネタリーベースを増やすことにとどまらず、資産側で、イールドカーブ全体の引下げや、必要に応じてリスクプレミアムの引下げを促していくことを通じ、量的ならびに質的な両面から大胆な金融緩和を進めていくことで、2%の物価安定目標を達成すべきであるし、達成できると確信しています。」
 引用:「資産側の質的な中身をみて、より長期の金融資産の購入によってイールドカーブをもっと下げていくことが必要です。」
 引用:「金融緩和については、「できることは何でもやる」というスタンスで、2%の物価安定の目標の実現に向かって最大限の努力をすることは、現在の日本銀行の使命だと思っています。従って、REITを含め、様々な金融資産の購入」を検討。→この「できることは何でもやる」という精神も重要

4 政府との協調はすでに共同声明にあるので、それを政策委員会として実行していくのが重要

5 期待インフレ率の計測については、物価連動債のものも参考にしていく(市場規模が小さいことなども配慮するなど)
6 現在、バブルの可能性はない。また資産価格の動向や雇用など国民経済の動向をみていくことも日本銀行の役目…ここが白川時代との大きな差異のひとつ

引用:「、現在、日本の資産市場に何か大きなバブルが生じているとか、生じそうである、その懸念がある、とは考えていません。むしろ、現在の課題は、15 年続いたデフレからどう脱却するのかということです。消費者物価上昇率は、最新時点でもまだマイナスです。それが一番大きな課題であり、今ご質問された、常にあり得るけれど、当面は余りありそうにない仮定のことを議論しても、金融政策の当面の課題に対応することにはなり難いのではないかと思います。 」

7 実質金利の重視(=経済の実勢の重視)を鮮明化→出口がいつか、という点ともからみここでも黒田総裁は従来の日銀理論と決別している。おまけにいえば、金利急上昇の国債暴落みたいなバカげた理屈にもきちんと答えている。

「景気がどんどん改善していく、物価がどんどん上昇していく、あるいはそういう期待がはっきり出てきた時に、長期金利に何らかの影響が出てくる可能性は当然あるわけです。しかし、その場合も、問題は実質金利であり、私は、直ちに実質金利が上がるとは思いません。従って、景気が良くなり、物価上昇率が 2%に向けてだんだん上昇していく中で、名目金利がそれを反映して若干上がることはあり得ると思いますが、にわかに実質金利が上昇することは考えていません。景気が急拡大して、もの凄く資金需要が高まってそういうことになる、ということは絶対にないとは言えませんが、景気が好転する、改善すること自体は好ましいわけで、今すぐ実質の長期金利が上昇するような局面は想定し難いと思います。問題は、物価上昇率あるいは物価上昇期待が 2%に向けて上昇していくことが 1 番大事であり、その中で、それを反映した若干の名目金利の上昇があったとしても、実質金利は引き続き低い、あるいは金融緩和によって長期の実質金利はむしろ低下していく──名目的にも当面は低下するかもしれませんが──と思います。いずれにせよ、直ちに実質金利が上がって困ることになるということは、全く想定し難いと思います。」

8 期待の要素をきわめて重視、従来の貸出経路だけ過剰に重視することへのけん制→従来の日銀理論とも6ともからみ事実上の決別。

引用:「「期待」というか「予想」の影響も無視できないわけで、特に、ゼロ金利下、短期金利がほとんどゼロに張り付いているもとで、量的・質的緩和を進める際には、期待への働き掛け、期待の果たす役割というのは実は非常に大きい」

9 現状はデフレ期待が弱まってインフレ期待に転換してきている。しかしまだまだ不十分である。追加的な政策が必要。

10 物価安定目標の指標はコアCPIだが、他の要因(石油価格の一時的な高騰、消費税の一時的かく乱など)にも配慮していく。

黒田総裁の発言は、私たちとほぼ同じであり、日銀の総裁記者会見史上、はじめて従来のいわゆる日銀理論ではない、わかりやすい経済学に立脚した記者会見が行われた歴史的なものである。

岩田副総裁の発言については、やはり日銀史上はじめて「リフレ派」の名称が出てきたのに驚く。

「(岩田副総裁) 「リフレ派」という言葉は、我々が言っている意味で必ずしも理解されているとは思いません。「リフレーション」という言葉を最初に言ったのは、1930 年代のアーヴィング・フィッシャー教授だったと思います。フィッシャーは、基本的に、「デフレの中で、雇用が失われ、経済成長が低下していく状況にある時、デフレを止めなければならないのだが、その時に、デフレが始まった前の物価水準までとにかく戻すために金融を緩和する」という意味で「リフレーション」と言ったわけです。しかし、現在は、物価水準をデフレになる前の元にただ戻すというだけではなく、実際には、経済は、ある程度の物価上昇があった方がむしろ安定することが分かってきました。特に、1990 年代ぐらいから、ニュージーランドが始めたインフレーション・ターゲットの中で、2%ぐらいの方が、だんだん失業率も低下して、雇用も最大化するし、経済も成長するということが経験的に分かってきたのです。従ってリフレ政策は、やはり 2%ぐらいのインフレ経路を上手く歩むように、金融政策を運営するという考え方だと思います。
「2%のインフレ目標」とは、あくまで手段であって、その方が、最終的には、雇用もよいし、成長率も上がるという実績があります。それが何故かについては、色々あり、本日はそこまでの説明はなかなか大変ですが、そういう経験が、短い国でも 10 年、長い国では 20 年ぐらいの実績があるのです。そういう意味で、2%ぐらいというのは、国際標準として、主要国ではそのぐらいの経路が、企業活動も上手くいき、投資行動も上手くいき、貯蓄行動も安定していくという実績のもとに、リフレーションは出てきているのです。「2%
ぐらいのインフレ」というと、何か大変なインフレとなってしまう、日本だけが凄いインフレになるのではないか、と思われるかもしれませんが、世界が、この 20 年くらいで経験を積んだ実績のある目標だということです。 」

最近、リフレを捻じ曲げる解釈が多いが、これこそ標準的なリフレの解釈であり、何度も読まれるべきものだ。

この記者会見はまさに日本の政策史上歴史的なものである。ちなみに中曽氏の発言は勢いことそないが、事実上の日銀理論(市場まかせの日銀は受動的立場)にどっぷりそまっているが、いまのところ人畜無害レベルまでにおとなしいものである。