財政政策ならば防衛支出を増やす方が望ましいのではないか?(田中秀臣、飯田泰之、原田泰諸氏の主張再考)

 現状のデフレ脱却については日本銀行の政策転換という金融政策の在り方を変えることがデフレ脱却の必要条件と考えている。
しかし財政政策をあえて積極的に行うならば、それは公共事業の景気拡大効果という「神話」にすがるべきではない。もちろん社会的に必要なインフラ整備は行う、復興事業に必要なものは行う、更新投資も必要なものはすればいいだろう。しかし政策目的が、デフレ脱却ならば、その効果は効率的なもの、すなわちできるだけ社会的に無駄でないものが望ましい。その点で公共事業に依存するのは誤りだ。この政策目的と手段の割り当てが、公共事業中心主義の人にはまったく理解されていない。

 多くの間違いは、政策目的に、デフレ脱却、復興目的、災害対策、更新の必要性などが一括してあたかもひとつの目的としてくくられているからだ。その混在一体としたごちゃごちゃなんでもかんでも混ざった目的に対応するのが公共事業だ、というわけだ。まさに政策目的と手段の割り当て議論の前提を理解していない幼稚なレベルである。

 公共事業に景気拡大効果があまり望めないことは多くの実証が証明している。もし仮に土建業者の生活が苦しいのならば生活保護に手段を割り当てるべきである。

 このような本題に入る前に長々と公共事業について書いたのは、いまのネットを中心とした公共事業狂想曲的な一部の「世論」を意識している。批判的に意識しているだけだが。

 さて本題である。動画のレベルでは何度も主張しているのだが、私は財政政策をあえて行うならば、公的雇用を増やすべきだという主張をしている。ひとつには社会的に望ましい公的雇用(防衛、教育、社会保障など)が歴然として存在し、それが欧米標準でも最も低レベルだからだ。欧米と比較してだけではない。

 例えば現状の自衛隊をみると、一時的な公的雇用の典型である、任期付き自衛官がここ15年の間、猛烈に減少している。そのため自衛官の年齢構成が異例なほど高齢化してしまっているのが日本の自衛隊の現状だ。これの原因が任期付き自衛官の採用の大幅減にあったことはまず疑いない。

 日本の防衛力という社会的必要の見地からもこの自衛官の公的雇用を増やすべきだと思う。この15年近くの間に4万人近く減少しているので、それを数年で戻すだけで雇用への効果は少なからずあるはずだ。

 この点はこの動画の24分20秒以降で話しているのでぜひ聞いてほしい。
http://www.youtube.com/watch?v=vT5lSpfwMgc

 また飯田泰之さんは、同じ上の経済討論で、26分30秒以降から、公共事業の景気拡大効果がきわめて小さくなっていること、そして防衛支出の方が景気拡大効果が望めることを主張しているのでぜひ参考にしてほしい。

 さらに原田泰さんもあえて財政政策をやるならば、という限定で以下のように書いている(リンク先はここ)。

 国土は断固として守るとほとんどの政党が言っているが、どう守るかは誰も言っていなかった。その中で、太陽の党が防衛力倍増と言ったのは評価できた。南シナ海の島々を奪取することでフィリピンやベトナムには遠慮していない中国が、日本には多少遠慮しているようであるのは、日米同盟と海上自衛隊の力を認めているからだろう。自衛隊の力を高めるのは抑止力になる。

 私は、無理やり需要を作る必要があるなら、無駄な公共事業をするより、防衛費を増額した方が良いのではないかと思う。多くの支出がアメリカの防衛産業に流出するが(経常収支の黒字減らしが必要な時代ならこれも良かったが)、国内でライセンス生産できる部分も大きい。

 自衛艦や巡視船の船体ならば、ほとんどが国内の需要になる。自衛艦が外国のコンテナ船に衝突されて艦首部分がほぼ全壊した事故があったが、この程度の船体なら、どの造船所でも造れるだろう。需要喚起策としても、公共事業よりも良いではないか。なぜそうならないのだろうか。

 公共事業では全国津々浦々の建設会社に仕事が落ちるが、防衛産業では特定の企業にしか落ちない。大型船の船体を造れる企業は、ハイテク武器を造れる企業よりずっと多いが、建設会社ほどの数はない。これが、防衛支出を需要喚起に使えない理由だろう。国土は1㍉たりとも譲らないと勇ましいことを言っているわりにはどうしようもない状況があるわけだ。

ぜひ財政政策、日本の本当の防衛を考えるときにこの論点を考えてみてほしい。