高橋洋一『これからの日本経済の大問題がすっきり解ける本』

高橋洋一さんの新著を読めば、最新の経済・政治問題の勘所が分かる。特に日本のマスメディア(大新聞やテレビ)がほとんど役所とその役所の出身者や利害関係者(御用知識人や御用学者)の伝言ゲームであるのはもう明瞭すぎるくらい明瞭ななかで、高橋さんの発言は異彩を際立たせている。代替的な意見のあまりない日本社会の中で、「お役所のホームページに書いてあることを脚色した程度の情報」しかない言論の場では、高橋本は貴重なリソースであり続けている。本当に「人口減少でデフレ」「景気回復やデフレでなくなると国債暴落」など役所のたわごとをそのまま日本の評論家たちが再生産している現状には驚くしかない。いまだに日本は大本営発表の次元にいるのだ。

本書でも大新聞の論調の主流である「財政再建+震災復興」の両輪を行え! という主張がいかに胡散臭いものか、その理論的な根拠のなさを説明している。例えば高橋さんによれば震災復興の財源、例えば約18兆円など、物価に変化を与えることなく(もちろんデフレの深化をふせぐ最低限度の効力はある)、現状の政策の枠組みでも十分だせ、それは財政を悪化させることもない、と一刀両断である。それがなぜできないか? 官僚たちの提案する政策の組合せは、この非常時でもあいかわらず前任者のやっていたことをそのまま提案するものであり、要は自分たちの出世が脳裏になるからだ。国民のことなど何も考えていない。そして官僚たちの提案をなぜ政治家たちも鵜呑みにするのか、これまたサラリーマン意識だからだ。つまりは自分の「出世」やスムーズな仕事に齟齬がきたすろとでも思っているのだろう。つまりは官僚や同僚議員は身の回りの支援者だけの「世間」だけで閉塞している政治家ばかりが多いのだろう。

「政府と与党、そして心ある政治家には、被災者をとるか既成エスタブリッシュメント官僚組織をとるか、いまこそ本当の「政治主導」を発揮してもらいたい」(同書23頁)

とあるが、まさに問題の核心をついている。実はこの前、ある講演をしたが、非常に若い政治家が財務省日本銀行の受け売りの発言をそのまま質問してきたので驚いた。若い世代の政治家だからといって既成の役所の宣伝から自由ではありえない。それだけ大本営的思考はこの国を根底までがんじがらめにしているのかもしれない。

 さていま政府や役人たち、それの傀儡である震災復興会議の提言のように、増税で復興をするとどうなるのか? 高橋さんは次のように指摘する。

「ただでさえ、震災ショックでGDPが最大0.5%低下すると内閣府は試算しているが、増税すればその2倍の最大1%低下することもありえる。内閣府の試算には福島第一原発事故計画停電の影響などは織りこんでいないため、経済的な影響はさらに大きくなる可能性がある。このように、震災のショックは地域的に分散し、さらに時間的にも分散しなければいけないのに、増税はまったく逆の効果をもたらす」41頁。

 本書はさらに第3章「日本の政治に「国民」はいない」に示されるように、東電と政府の癒着、電力問題などにも独自の視点で切り込んでいる。ここらへんの議論はこんどの23日のトークイベントでさらに立ち入って議論したい。異論反論もちろん賛成ともに大歓迎である。卑怯な何もしない政策にコミットする多くの役人やその代弁者(ネットでも多い! 「国」=ながいものにまかれたいというたぶん幼児的な異常な執念を背景にしているのかもしれない)のように陰湿な批判よりも、どうどうと反論するべきである。まあ、残念ながら官僚とその代弁者たちにはそういう直言をしても意味がないのかもしれないが。