岩田規久男『「不安」を「希望」に変える経済学』

 とても楽しみに待っていました。御本をお送りいただき大変嬉しいです。最近、リフレ派の人たちの本は何度もじっくり読み返すことを意識的にしようとしています。自分の血肉に変えるために必要な作業だという意識からです。そして岩田先生の本は、その意味でも体系的に日本の政策問題を考える格好の指南書です。

 冒頭で現在の民主党政権の政策を、政策の割り当て基準から厳しく評価していきます。ここだけでも一冊分の内容ですね。成長分野は政府が決める能力もその資格もないことを明瞭な論理で説き明かしています。環境政策、高速道路無料化、子ども手当、農家の個別所得補償制度などが次々と経済学の明瞭な尺度で批判されていくのは、読者にとっても得難い武器をもらった感じになるでしょう。

 日本の長期停滞をもたらしたのは、構造要因か、それとも日本銀行の失敗による循環的な要因か、この対立について最新の実証結果を応用しながら、「ゾンビ企業仮説」などを論破していく書きっぷりは、おそらく現状で誰も真似ができないほど周到なものです。僕もこの章は三回読みました 笑。

 日本銀行の大罪……というのは僕の本の題名ではなく、岩田先生の本の「第三章」の章題名です。長期停滞の主因を日本銀行の事実上のデフレ政策に求め、さらに現状の白川総裁の日銀はさらに迷走かつ居直りを続けていること、そして「日銀応援団」という経済学者、エコノミストたちが、「デフレは金融政策で解決できない」「景気対策として金融政策はうまく効果がでない」などという日本だけで流通している間違った考えかたを支援している実態に、岩田先生は大きく切り込んでいます。

 これは最近の拙著、上念司さんの本、宮崎哲弥勝間和代飯田泰之高橋洋一浜田宏一・若田部昌澄・勝間和代氏らの諸本と完全に一致する、「日本銀行の構造問題」=政策指針の欠如(あっても日本経済にマイナス)+日銀のガバナンスのいいかげんさ、などを指摘するものと同じ意図をもった批判です。

 日本ではインフレ目標政策や、海外の中銀が行った非伝統的金融政策を試しもせずに、批判ばかりする状況は異常といっていいでしょう。

 また本書ではニュージーランド、オーストラリアなどの経済改革、都市再生、女性労働の活用、税制改革、年金改革、労働市場改革など、およそ主要な経済問題を、首尾一貫した視線で論じています。岩田先生の過去の著作とも連動させて読んでいけば、テレビ、新聞、ネットなどで日々発信されている経済情報を自分の頭で理解することができるでしょう。

 そのことがもっともいまの日本で「不安」から「希望」につなぐことができる自分だけのかけがえのない(思索の)道ではないでしょうか。

「不安」を「希望」に変える経済学

「不安」を「希望」に変える経済学