坂本龍馬の経済思想

 NHKの大河ドラマ龍馬伝』がやはり面白い。長年の龍馬フリークである僕も久しぶりに龍馬熱が復活してきた。ところで龍馬は「海援隊」を今日の「会社」の先駆として設立し、貿易を立国の基礎と考え、また対地域政府との賠償交渉など民間レベルでの経済問題の対処のツールを見出したことでも知られている。これらすべてに坂本龍馬の「経済思想」的な発想を読みとることができるかもしれない。あるいは横井小楠ら同時代の経済思想の大家との影響関係も調べると面白いかもしれない。

 坂本龍馬が実際にどんな人であったかは、現在は文庫版で『龍馬の手紙』という本がでているのでそれを読めばおおよそのことがわかる。僕はいつも思うのだが、坂本龍馬の最大の貢献というか魅力は、おりゅうとのラブアフェア、特にその日本初と形容されることの多い九州での「新婚旅行」ではないかと思っている。薩摩と長州の同盟の仲介も大政奉還も「船中八策」も僕にはこの「新婚旅行」の意義にくらべると魅力が低下してしまう、と書いたら龍馬ファンに怒られるかもしれないが。

 『龍馬の手紙』にはこの「新婚旅行」の様子を図入りで龍馬が姉たちに書き送った手紙も当然収録されていてやはり面白い。ところで本書を読んでいてやはり「マクロ経済思想」的に注目すべきなのは、龍馬が為替レートの問題と金融政策を重視していたことである。両方とも海外との交易を重視する上では当たり前ともいえたが、当時の志士たちの中で一貫して彼のマネタリーな要因を重視する戦略は政治的な文脈の中でも異色を放つのではないだろうか。

 例えば慶応三年(一八六八年)に後藤象二郎に宛てた手紙には、大政奉還を実効性のあるものにするために、貨幣鋳造の権利を幕府からとりあげて、さらに銀座を京都に移すことをすれば、幕府の権力も有名無実のものになると書いている。これなどは龍馬の政府運営におけるマネタリーな面の重視を端的に表しているだろう。百数十年後の今日、「中央銀行の独立性」を何の考えもなしに二流「官庁」に委託し、そのために日本社会の事実上の命綱を放棄している現在の政府の認識とはまったく異なるものだろう。

 さらにやはり一八六八年に起草された「船中八策」や「新政府綱領八策」には、新政府の取り組むべき問題(八策の中のただひとつの経済項目)として、「金銀物貨宜しく外国と平均の法を設くべき事」が強調されている。龍馬の(国際)金融的な認識がどこまで広い視野をもつものであったのか、同時代の人や制度などの分析を通じてより明るみにできたら面白いようにも思う。

龍馬の手紙 (講談社学術文庫)

龍馬の手紙 (講談社学術文庫)