「中長期のインフレ予想」と日本銀行の政策スタンス

 「デフレ・スパイラル」の日本銀行の公式見解を知りたくて検索してて、半年ほど前の総裁記者会見がひっかかり、思わず長く読んでしまい、暗い気持ちにならざるをえなかった。

 http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0901a.pdf(2009年1月22日)。

 この記者会見の内容をみる前に、最近の金融政策についての公式文書http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc09/k090715.pdfから一文引用しておこう。

:物価面では、消費者物価の前年比は、当面、下落幅を拡大していくものの、中長期的なインフレ予想が安定的に推移するとの想定のもと、石油製品価格などの影響が薄れていくため、本年度後半以降は、下落幅を縮小していくと考えられる。こうした動きが持続すれば、わが国経済は、やや長い目でみれば、物価安定のもとでの持続的成長経路へ復していく展望が拓けるとみられる。もっとも、海外経済や国際金融資本市場の動向など、見通しを巡る:

 ここでのキーポイントは「中長期的なインフレ予想」である。「中長期的なインフレ予想」とは実際になにか? 日銀の公式見解ではよくわからないので、公式見解ではないといっているものの、「公式見解」である日銀レビューを参照にしよう。
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/data/rev08j15.pdf

ここでは「中長期的なインフレ予想」が、例えば10年先のものとしては、消費者サーベイ(生活意識アンケート調査、消費動向調査)、エコノミストサーベイ、ブレーク・イーブン・インフレ率などとして紹介されている。

では、なぜこれらのサーベイから推計される「中長期的なインフレ予想」が重要なのか? ここで冒頭の白川総裁の記者会見での発言から引用しておこう。

(問) 日本の潜在成長率が若干下がっているということでしたが、中間レビューをみると、潜在成長率を相当下回る成長が2年間続き、2010 年度の見通しも1.5%であるということは、物価に対する下押しの力も相当強いのではないかと思います。それにも関わらず2010 年度の消費者物価の中心値の見通しがマイナス0.4%というのは、若干マイナス幅が小さい感じがします。その辺の考えをお聞かせ下さい。また、消費者物価のマイナス0.4%というのは、中長期的な物価の安定の理解の0〜2%という範囲を下回っているわけですが、それに対する金融政策の必要性に関してはどのようにお考えでしょうか。

(答) まず、需給ギャップの拡大と物価上昇率の関係についてです。ご質問にあったように成長率はマイナスが続くため、当然需給ギャップが拡大します。需給ギャップ物価上昇率の関係についてはフィリップス曲線と呼ばれています。これを日本経済の過去の長いデータに即して点検すると、実は物価上昇率が非常に高い経済から非常に低い経済に移行するという時には、需給ギャップに応じて物価上昇率も変動するわけですが、先々の物価上昇率に対する期待が比較的変わらないという時には、需給ギャップが変化しても物価上昇率があまり変化していないというのが近年の関係です。そういう意味で、問題は先程から何回か議論になっている中長期的な予想インフレ率が変わるのかどうか、ある種のレジームが変わることがあるかどうかというのがポイントであると思います。過去十数年間のデータからすると、今回の予測について需給ギャップの関係からおかしな数字になっているというわけではありません。ただ、その妥当性を考えるうえでの一つの大きなポイントは、中期的な予想インフレ率がどうかという話であります。それから、中長期的な物価安定の理解の数字と今回の物価の数字との関係についてです。日本銀行は物価安定の理解という形で出していますが、他の中央銀行も、それぞれ目標とか定義というかたちである種の数字を出しています。そうした数字と実際の予測の数字が上に乖離したり、下に乖離するということはこれまでも起きているわけです。問題は、中長期的な物価安定の理解でありますので、繰り返しになりますが、中長期的にみた予想インフレ率というものが変化するかどうかということが非常に大事であると思っています。ゾーンからはみ出たから、直ちに金融政策上の対応が必要であるということでは必ずしもありません。これは、日本銀行についてということではなく、他の中央銀行についても全く同じような考えで運営されていると私は理解しています。http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0901a.pdf

 簡略すると、「中長期的なインフレ予想」がいまはそんなに変化していない。だから現状の物価変化率がデフレであっても(あるいは足元の需給ギャップが悪化してても)、金融緩和する必要条件ではない、というわけである。

これは今日、各社の通信社で配信された山口副総裁の以下の発言のベースになる認識である。

デフレスパイラルのリスク小さく、追加策必要なし=日銀副総裁
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-10163020090722

:山口副総裁は、日本経済がデフレスパイラルに陥る可能性について「われわれが物価情勢についてもっとも注意しているのは、物価下落と景気後退の相乗作用的なことが起きないかどうかだが、そこについては現状、そうした状態に陥るリスクは小さいと思っている」と指摘。政策面の対応については「そういう物価についての状況認識を前提とすると、今の段階で更なる金融緩和を行わなければならないという状況ではない」と強調した。:

ここでいうデフレスパイラルとは、上記の「中長期的なインフレ予想」が大幅に変化した状況と、足元の需給ギャップ悪化、足元の物価変化率がデフレ、さらに潜在成長率の低下というすべての条件とあとプラスアルファをみたして、はじめて達成される現象である。現状では、この(客観的にみてもハードルの高い)デフレスパイラル条件をみたさないかぎり、金融緩和の追加は行わないだろう。したがって日銀的には、中長期的にソフトランディングできる見込みが高いので、日銀の頭には緩和追加よりも、出口政策=金利上げが最優先検討事項になるわけであろう。そのタイミングは次の形而上学的(官僚的)な一文が事実上消えたときにより顕在化するであろう。

物価面では、景気の下振れリスクの顕在化、中長期的なインフレ予想の下振れなど、物価上昇率が想定以上に低下する可能性がある。

 この文章はそのままとれば、日本的風土ではとりあえずの「言い逃れ」として挿入されている一文である

以上の日本銀行のスタンスは知っておいていいだろう。整理のために批判はとりあえずおいて、以上を書いておきたい。

(追記)やはり批判的コメントはしておこう。Twitterにつぶやいたのをそのままコピペ。http://twitter.com/kanrifu 

 日本人の「中長期インフレ予想」が異常に低く(これは日銀の政策の貢献…日銀自身も認めてる)、それが短期の失業率の増加を放置するということならば、そんな予想を参考にするのは国民経済の観点から不適当もしくは(なおかつ)その予想を日銀が上方修正=レジーム転換する必要があるのだが。
 5年先のインフレ予想が仮に適切な水準だと日銀が強弁しても、その間の「短期」の間に失業している人間にとっては死活問題。こういう中央銀行をもった国民は不幸である。
 ゆえにこの異常に低すぎる(国民経済の観点から不適切すぎる水準)「中長期のインフレ予想」をレジーム転換して、より高いインフレ予想に移行するという、僕らのレジーム転換論の正当性があるだろう。

(雑記)しかし、新しいdynabookvistaの組み合わせが僕には最悪で、ほんとうにストレスが大きい。この文書も予定の倍かかった。すぐにハンドルできない状態です云々となってネット閲覧が強制終了。日記に直接、コピペ作業を「繰り返すとそんな感じになりきわめて不安定。何かの陰謀かと 笑 マックに戻ろうかなあ